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教育基本法改正に反対する会長声明
1.
本年4月28日、政府による教育基本法改正法案が国会に上程され、その後、対案としての民主党案も提出され、それらは衆議院特別委員会で実質審議に入った後、同年5月30日、継続審議とされました。
そして、今月20日に行われた自民党総裁選の後、同党執行部は、26日に開会の今臨時国会で同法案の早期成立を目指すことを表明しています。
2.
ところで、当会では、子どもの権利委員会の委員を中心として、20年近くにわたって「子どものなやみごと相談」での相談活動や子どもの人権擁護活動を行い、また、それ以前から非行を犯してしまった少年たちの付添人としての活動を熱心に行ってきました。
そのような子どもに関わる諸活動の経験から、私たちは、今国会で審議される教育基本法の改正案に対し、強い危惧の念を覚えるものです。
3.
というのは、私たちが従来の子どもに関わる活動を通じて感じているのは、現行の教育基本法に不備があるから子どもたちが問題行動を起こしている、あるいは、不登校になったり、いじめの加害者や被害者になっているということでは全くないからです。むしろ、現在においても学校教育が、学力偏重、過度に競争的な教育制度となっており、多くの「落ちこぼれ」の子を生み出すなどしていて、本来楽しいはずの場が、逆に、子どもにとって非常にストレスの多い場となっていることにこそ問題があるということです。
また、現行の教育基本法が、前文及び第1条の教育の目的で掲げている「個人の尊厳を重ん」ずること、「個人の価値をたつと」ぶということが、現実にはまだまだ充分ではなく、学校現場においては、「どんな子どもであっても1人1人の子どもが大切にされる」というよりは、「問題のある子どもは多数の子どものために切り捨てる」という傾向になりつつあることが、より多くの子どもたちを非行やいじめ行為、不登校に追いやっていると考えています。
4.
そうした体験から、今回の教育基本法改正案を見るとき、いずれの改正案も、むしろ、従来禁止されていた教育内容にまで政府が過度に介入する途を開くなど(教育行政についての、現行教育基本法10条2項、政府案16条、民主党案18条)、これまで以上に、全国一律の競争的な教育制度になるのではないか、また従来不充分であった子どもの人権への配慮がますます忘れさられるのではないか(政府案第1条「教育の目的」から「個人の価値をたつとび」が削除されている)、さらに特定の信条・思想・倫理観などが教育の場に持込まれ、それを子どもたちに強制し、また、成績として評価することで、子どもたちがますます学校の場から離れていくのではないか(政府案第2条教育の目標)、その結果、従来以上に、多くの子どもが落ちこぼれ、切り捨てられ、非行に走ったり、いじめをしたり、不登校になったりするのではないかという強い不安を感じます。
5.
以上の観点から、当会としては、今般の教育基本法改正案のいずれもが廃案とされる事を強く望み、その旨、表明します。
2006(平成18)年9月29日
金沢弁護士会
会長 木梨 松嗣