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犯罪被害者の刑事手続参加に反対する会長声明
犯罪被害者および遺族の刑事手続き参加を認める「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が既に衆議院で可決され、参議院に係属中である。被害者参加制度は、犯罪被害者等に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、被告人に対する直接質問、求刑を含む意見陳述等を認めているが、この制度は、近代刑事司法の理念に反し、被告人に認められた憲法上の適正手続保障をそこないかねない。
1.近代刑事司法の構造を変容させる
近代刑事司法は、国家機関たる検察官に起訴および訴訟追行を独占させ、有罪立証は 検察官の責任とされ、被告人・弁護人がこれを弾劾するという二当事者対立構造をとっているが、被害者参加制度は、犯罪被害者等に「被害者参加人」という法的地位を与え、検察官の活動から独立した訴訟活動を認めることになる。これは、二当事者対立構造を変容させ、近代刑事司法が断ち切ろうとした報復の連鎖を復活させることになる。
2.真実発見に障害となる
刑事司法は、無罪推定の原則のもと、予断と偏見を排除し、被告人は法廷において任 意に供述できる防御の機会が保障されなければならない。法廷で犯罪被害者等が被告人と対峙することになれば、被告人は多大な心理的圧迫を受けて萎縮し、本来なすべき供述や弁論が出来なくなるおそれが大きい。犯罪被害者等から直接質問されれば、犯罪被害者の落ち度など重要な争点につき被告人は沈黙せざるを得なくなる場合も生じ、防御権が実質的に侵害され、実体的真実の発見がゆがめられ、証拠に基づく冷静な事実認定と公平な量刑の実現が阻害されかねない。
3.裁判員に過度の影響を与える
2009年5月までに施行される裁判員制度は、元々被害者等の参加が考慮されておらず、被害者参加制度が導入されれば、情緒的で影響を受けやすい裁判員は犯罪被害者等の意見や質問に大きく左右され、冷静かつ理性的な事実認定が困難となり、過度の重罰化に傾く危険性が容易に予想される。また犯罪被害者等の手続き参加により争点の拡大や訴訟遅延ないし混乱を来すことは明白で、公判前整理手続きによる適切な争点と証拠整理、連日開廷による充実した迅速な審理の実現に大きな支障を招く。
4.犯罪被害者等に対しては、支援・救済が優先さるべき
犯罪被害者等が刑事裁判に対して抱く不満の多くは「事件の当事者」でありながら刑事手続きに充分な情報提供を受けられないため、「知りたい」という願いが満たされないことや検察官の訴訟活動に自らの思いが反映されていないことに起因する。こうした不満に対応するためには被害者等の検察官に対する質問・意見表明や公費による弁護士支援制度および経済的保障制度などを早期に導入し、精神的・経済的支援体制を構築、充実させることこそが重要視されなければならない。
よって、被害者参加制度の新設に反対する。
2007(平成19)年6月13日
金沢弁護士会
会長 今井 覚