-
志賀原発の拙速な再稼働に反対する会長声明
第1 会長声明の趣旨
当会は,志賀原子力発電所1号機及び2号機について,福島第一原発の事故原因が解明されず新しい安全基準による審査もなされていない現段階においては,その再稼働に反対する。
第2 会長声明の理由
1 福島第一原発事故の原因が解明されていないこと
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所(以下原子力発電所を「原発」という。)事故について,その原因を解明するため,政府及び国会がそれぞれ事故調査委員会を設置したが,いずれの事故調査委員会も最終報告を行っていない。
福島第一原発事故のような事故を起こさないためには,福島第一原発事故を踏まえた安全対策を実施する必要があるが,このように福島第一原発事故の原因は,解明されていない。
したがって,福島第一原発事故の原因が解明されていない以上,志賀原発1号機及び2号機(以下合わせて単に「志賀原発」という。)を再稼働させてはならない。
2 安全基準が改訂されていないこと
福島第一原発事故によって,現行の安全設計審査指針には,長時間の全交流電源喪失・共通原因故障を想定していなかったなどの誤りがあることが明らかになった。また,福島第一原発1号機については,現行の耐震設計審査指針の想定内の地震動であったにもかかわらず,地震によって配管が破断した可能性が指摘されている。
福島第一原発事故のような事故を起こさないためには,福島第一原発事故の実態を踏まえてこれらの安全基準を改訂し,改訂された安全基準に基づきバックチェックを行う必要があるが,前記1記載のとおり福島第一原発事故の原因は,解明されておらず,安全基準は,改訂されていない。
したがって,安全基準が改訂されていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。
3 ストレステストが実施されていないこと
政府は,原子力安全委員会の要求を受けて,ストレステストを実施することとしたが,志賀原発では,ストレステストの一次評価の審査中であり,二次評価は,実施されていない。
このように一次評価の妥当性が確認されていない上,原子力安全委員会の斑目春樹委員長は,一次評価及び二次評価を合わせて実施して初めて,総合的安全評価と言い得る旨述べている。
したがって,ストレステストが実施されていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。
4 30項目の対策が実施されていないこと
原子力安全・保安院は,平成24年3月,福島第一原発事故の発生及び進展に関し,当該時点で分かる範囲の事実関係を基に,今後の規制に反映すべきと考えられる事項を30項目の対策として取りまとめた。
福島第一原発事故では,格納容器ベントが実施され,大量の放射性物質が放出されたため,当該30項目の対策は,ベントフィルターの設置を求めているが,志賀原発では,当該ベントフィルターの設置を含む対策が実施されていない。
したがって,当該30項目の対策が実施されていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。
5 原子力規制庁が設置されていないこと
政府は,福島第一原発事故によって損なわれた我が国の原子力の安全に関する行政に対する内外の信頼を回復し,その機能の強化を図るため,原子力規制庁を設置する法案を国会に提出したが,当該法案は,成立しておらず,原子力規制庁は,設置されていない。
原発の安全規制に失敗した現行の原子力安全・保安院及び原子力安全委員会という体制で,原発の安全性を判断することはできない。
したがって,原子力規制庁が設置されていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。
6 地域防災計画が改定されていないこと
地域防災計画は,原子力災害防災対策特別措置法(以下「原災法」という。)に基づき策定されているところ,政府は,福島第一原発事故を受けて,原子力災害対策重点区域(いわゆるEPZ)の見直しを含む原災法の改正法案を国会に提出したが,当該改正法案は,成立しておらず,これに基づく地域防災計画の改定も行われていない。
福島第一原発事故では,EPZの範囲を超える地域が放射性物質によって汚染されるなど,地域防災計画の改定の必要性が明らかになった。
したがって,地域防災計画が改定されていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。
7 住民の同意が得られていないこと
福島第一原発事故では,広範な地域の住民が被ばくし,また,避難を余儀なくされるなど,甚大な被害を及ぼしていることから,原発の再稼働にあたっては,原発立地自治体にとどまらない広範な地域の住民の同意を得ることが必要である。
しかし,志賀原発に関しては,安全協定については,石川県及び志賀町以外の自治体とは締結されておらず,また,住民の意思を確認する住民投票等も実施されていない。
したがって,住民の同意が得られていない以上,志賀原発を再稼働させてはならない。
以 上
2012年(平成24年)5月2日
金沢弁護士会
会長 奥 村 回