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労働者派遣法改正案に反対する会長声明
労働者派遣法改正案に反対する会長声明
第1 趣旨
当会は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」という。)に強く反対し、本改正案の廃案を求める。
第2 理由
1 平成26年1月29日、厚生労働省の労働政策審議会は、「労働者派遣制度の改正について(報告書)」と題する報告書を取り纏め、厚生労働大臣に建議をした。厚生労働大臣は、同年2月21日、同報告書の考え方に沿った本改正案の要綱を発表し、これを受けて、政府は、同年3月11日、本改正案を閣議決定して、同日付けで国会に上程した。
しかし、本改正案は、正社員の非正規労働者への置き換えを促し、低賃金かつ不安定雇用の非正規労働者の更なる増加をもたらし、ひいては労働者の貧困をもたらすものであるため到底容認しうるものではない。
2 労働基準法が中間搾取を禁止し、職業安定法が労働者供給事業を禁止していること等をみても、我が国の労働法制下においては直接雇用が原則とされており、雇用関係が不安定で中間搾取による賃金低下という大きな弊害をもたらすおそれがある間接雇用は、原則的に禁止されるべきものである。
そもそも労働者派遣法は、労働力需給の迅速かつ的確な調整を図るという社会的な必要性に鑑みて、上記の原則論の中であくまでも「例外的に」制定された法律であり、派遣労働者が正規労働者を常用的に代替することを防止するという理念も労働者派遣法の根幹にあるのである。
しかし、本改正案は、従前の議論の中では廃止も含めて検討するとされていたはずの登録型派遣を存置することを前提にしているばかりではなく、従来の専門26業務による区分を廃止した上で、①無期雇用の派遣労働者の派遣期間制限を撤廃し、②有期雇用の派遣労働者に関しても、派遣先が3年ごとに過半数労働組合等から意見を聴取さえすれば、派遣労働者の入れ替えによって永続的に派遣労働者を受け入れることができるとしている。すなわち、上記①及び②の改正内容は、派遣労働者の派遣期間制限を事実上撤廃するものであり、直接雇用の正規社員から間接雇用の労働者派遣へと雇用形態の移行を増加させることが予想される。
したがって、本改正案の内容は、派遣労働法が本来有していたはずの常用代替防止の理念を事実上、放棄するに等しいものである。
3 なお、本改正案は、派遣期間の上限に達した有期雇用の派遣労働者に対する雇用安定措置として、派遣元が、派遣先への直接雇用の依頼、新たな就業機会(派遣先)の提供、派遣元事業主における無期雇用化等のいずれかの措置を講じなければならないこととしている。しかし、これらの措置を講じない場合の私法的な効力は付与されておらず、雇用安定措置としては実効性を欠き、多くの派遣労働者が失職することに発展しかねない。
4 このような労働者派遣法の改正は、正規社員が非正規社員に置き換えられるという形で、直接雇用されている正規社員の減少を進め、労働者全体の雇用の不安定化や、賃金の低下等の労働条件悪化という結果を招き、ひいては労働者の貧困を招く事態となりかねない。したがって、本改正案は、雇用の安定を望む社会的な要請に明らかに反する内容である。
以上の理由により、当会は、本改正案に強く反対し、本改正案の廃案を求める。
以 上
2014年(平成26年)3月28日
金沢弁護士会
会 長 西 井 繁