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集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明
集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明
趣旨
当会は,政府による憲法解釈の変更や法律の改正・制定のみで,集団的自衛権の行使を容認することに強く反対する。
理由
1 集団的自衛権行使を容認する最近の動き
平成24年(2012年)12月の衆議院議員総選挙で自由民主党が大勝し政権与党に復帰して以来,集団的自衛権の行使を容認する動きが急速に進んでいる。
まずは安倍首相が内閣法制局長官に集団的自衛権行使の容認論者を任命したことに始まり,続いて政府が国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案や特定秘密保護法案を国会に提出,国会における反対意見,日弁連・当会を含む各地弁護士会の反対,市民らの反対運動を押し切って成立させたことは記憶に新しい。
そして,今,安倍首相は,閣議決定により憲法9条の解釈変更を行った上で,既存の関連法を集団的自衛権の行使を前提とする方向で改正するほか,将来的には国家安全保障基本法等の制定を考えているようである。
2 集団的自衛権に関するこれまでの政府見解
政府は従来から,自衛権発動の場面を,①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること,②この攻撃を排除するため,他の適当な手段がないこと,③自衛権行使の方法が,必要最小限度の実力行使にとどまること,の各要件に該当する場合に限定してきた。
そのうえで,集団的自衛権を「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利」と定義した上で,自衛権発動の①の要件を欠くことから,「我が国が,国際法上,このような集団的自衛権を有していることは,主権国家である以上,当然であるが,憲法9条の下において許容されている自衛権行使は,我が国を防衛するための必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており,集団的自衛権を行使することは,その範囲を超えるものであって,憲法上許されない」(昭和56年(1981年)5月29日政府答弁)との見解を表明し,その後の政府答弁や内閣法制局長官答弁においても,この政府見解を前提とする答弁が繰り返し表明されている。
国民の間にも広く「我が国は集団的自衛権を行使しない」との信頼が形成されており,対外的にもそのような信頼が定着していると言っても過言ではない。
3 現行憲法下で集団的自衛権の行使を容認することは許されない
⑴ 集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲は許されない
上記の政府見解は,憲法上の当然の帰結である。そもそも平和は,個人の尊重や人権保障の大前提であることから,憲法前文,第9条は,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認という恒久平和主義,そして平和的生存権を宣明している。この憲法第9条が,前記自衛権発動の3要件が具備されない状況下で,外国に対して武力攻撃がなされたということを理由とする武力行使を許容しているとは,到底考えられない。したがって,憲法第9条の文言からは,集団的自衛権の行使を容認する解釈は成り立ち得ない。
よって,時の政府の都合で憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を容認することは憲法上絶対に許されない。
⑵ 集団的自衛権の行使を容認する法律の改正や立法も許されない
また,憲法前文及び憲法第9条に規定されている恒久平和主義,平和的生存権の保障は,憲法の基本原理であるから,憲法の下位規範である法律を改正あるいは制定してこれを変更しようとすることは,国務大臣や国会議員の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に反し,憲法が最高法規であり,憲法に反する法律や政府の行為は無効であるとされていること(憲法第98条)に鑑み,許されない。
しかも憲法は国の基本的な在り方を定める最高法規であるから,憲法第96条は,改正の要件を,①各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し,②国民投票でその過半数の賛成を得なければならないとして,一般の法律より格段に厳格な手続を定め,国会や国民の間で充分かつ慎重な審議が尽くされることを要求している。このような厳格な憲法改正の手続を回避し,通常の立法手続で集団的自衛権を認めてしまうことは,立憲主義をないがしろにするものと言わざるを得ない。
したがって,集団的自衛権の行使を前提とした既存法の改正や立法も許されない。
⑶ 以上の根本的な問題点は,集団的自衛権の行使につき,国会の事前承認を要するとか「限定的に認める」としても,何ら解消されるものではない。
4 結論
以上の次第であるから,当会は,政府による憲法解釈の変更や法律の改正または制定のみで,集団的自衛権の行使を容認しようとする最近の政府の行為に強く反対する。
平成26年(2014年)5月2日
金沢弁護士会
会 長 飯 森 和 彦