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安全保障法制に関する2法案に断固反対する会長声明
安全保障法制に関する2法案に断固反対する会長声明
(趣旨)
当会は,政府が第189回国会に提出した安全保障法制に関する2法案の成立に断固反対する。
(理由)
1 政府与党は,安全保障法制を整備するとの方針の下,平成26年5月から与党協議を開始させ,同年7月1日にはこれまでの政府解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をし,これを受けて平成27年4月27日には新たな日米防衛協力のための指針(以下「新ガイドライン」という。)に合意し,さらに、同年5月14日には,新法である「国際平和支援法」と,既存の自衛隊法や周辺事態法(重要影響事態法に名称を変更)等10の関連法律の改正を一括した「平和安全法制整備法」の2法案を閣議決定し,国会に提出した。
2 これまでにも当会は,集団的自衛権の行使を容認することが,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認を謳っている憲法第9条や恒久平和主義を宣明している憲法前文に反していること,また,閣議決定という何ら制約のない手続きによって集団的自衛権の行使を容認することが政府の独断専行によって前記憲法の精神を踏みにじるに等しく,立憲主義をないがしろにするものであること等を理由に,政府与党が進めてきた安全保障法制整備の動きに対し,一貫して反対意見を表明してきた。
すなわち,平成26年5月2日には「集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明」を,同年6月27日には「性急な閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明」を,同年7月25日には「集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める会長声明」を,さらには平成27年2月6日には「集団的自衛権行使等の閣議決定撤回と法整備中止を求める決議」を総会で採択し,それぞれ関係各機関に発出してきた。そのほか,広く一般市民にも訴えるべく,多数回に及ぶ署名活動・街頭宣伝活動を行い,さらにはシンポジウムや意見交換会等も開催してきた。
これら当会の意見表明や活動には,多数の市民が賛同しており,同様の思いをもって状況を見つめている者は,日本国中を見渡しても決して少なくないと思われる。
3 それにもかかわらず,政府は,我々の声に耳を傾けることなく,国民の代表機関である国会に諮ることもなく,今般,新ガイドラインに合意し,それを受けて上記2法案を閣議決定し,国会に提出した。
⑴ しかし,まず新ガイドラインにおいては,「日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」として,日本が米国とともにアセット防護,海上作戦,後方支援等を行うことが定められるなど,集団的自衛権行使の内容がかなり具体化されているが,このような集団的自衛権行使という憲法上極めて重要な問題につき,外交関係の処理という枠組みのみにおいて対外的に新たな取り決めを行うことは,立憲主義をないがしろにするものである。のみならず,その内容について国民に十分な周知がなされないままに日米の政府間でガイドラインを合意することは,いまだ国会で議論すらされていない安保法制立法を既成事実化するものであって,国民主権・民主主義に反するものであり,到底許されない。
⑵ 次に,上記2法案のうち自衛隊法や武力攻撃事態法等の改正案では,これまでの自衛隊の防衛任務から「直接侵略及び間接侵略に対」する場合を削除し,新たに「存立危機事態」を追加して自衛隊が武力行使をできる範囲を集団的自衛権の行使にまで拡大している。また周辺事態法の改正案である重要影響事態法案においては,外国軍隊への後方支援に関する地理的な制約を排除した上,武器使用を認める範囲も拡大している。しかし,このような法案が成立し,実際に自衛隊による防衛活動や後方支援活動が行われれば,いずれ自衛隊員の中にも戦闘に巻き込まれて命を落とす者,他者の命を奪う者が現れることは明白である。
政府はこれらの法案は戦争法案などではなく,抑止力により平和を構築するための法整備である旨説明する。しかし,このような法制化が他国に対する抑止力に止まる保証はどこにもなく,相手国にとってはまさにわが国が他国の戦争に加担する国となるということにほかならない。当会は,戦争は人権侵害の最たるものであるとの認識の下,戦争に巻き込まれる危険を伴う法案には,人権擁護の立場から断固反対するものである。
4 以上のとおりであるから,当会は,政府及び国会に対し,現在国会で審議中の安全保障法制に関する「国際平和支援法」と「平和安全法制整備法」の2法案の成立に断固反対する。
2015(平成27)年5月26日
金沢弁護士会
会 長 西 村 依 子