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少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明
少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明
選挙権年齢を18歳に引き下げる公職選挙法の一部を改正する法律(平成27年法律第43号)が平成27年6月17日に可決成立したが、その附則第11条では、「少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」と規定されている。また、自由民主党は同法の成立に先立ち、「成人年齢に関する特命委員会」を開いて、少年法の適用年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることを検討しているとの報道がなされている。
しかし、当会は、以下の理由により少年法の適用年齢を引き下げることについては強く反対するものである。
法律の適用年齢は、それぞれの法律の立法趣旨を踏まえ、法律ごとに考えなければならない。公職選挙法と少年法では立法趣旨が全く異なる。
選挙権年齢は、多元的な民意を的確かつ効率的に国政等に反映させるため、どのような範囲の者に選挙権を与えるのが適当かという観点から考えるべきものであり、18歳以上の国民に選挙権を付与することは、多元的な、特に若年者の民意を的確に国政等に反映する上で合理性を有するといえる。
しかし、少年法の適用年齢に関しては、選挙権年齢と同様に考えることはできない。少年法は、少年が、人格的に発達途上で環境の影響を受けやすく教育可能性も大きいこと(可塑性)から、「性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」こと等を目的としているところ(少年法第1条)、現状、18歳・19歳の非行に至る少年について、人格的に発達途上でなくなったとか、環境の影響を受けなくなったとか、教育可能性がなくなったとかいった事実はない。むしろ、社会の変化(ネット依存、離婚等による不安定な家庭の増加、等々)にも伴い、非行に至る少年については特に、心理的、精神的、社会的な成熟が遅れる懸念がある。そのような少年に対しては、「性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分」の必要性が増大しているというべき状況なのである。家庭裁判所が取り扱う少年事件の約4割を占めるのが18歳・19歳の少年であるところ、それらの少年に対し刑事罰を科することとなれば、何ら教育的な措置が講じられず、その結果、将来にわたって犯罪が繰り返されることになりかねない。さらにいえば、刑罰法令に触れるわけではないが将来犯罪に及ぶ危険性が高い状態にある虞犯への介入は、少年法に固有のものであるところ、少年法の適用年齢が18歳未満に引き下げられれば、18歳・19歳の虞犯への介入が不可能となり、犯罪の芽を未然に摘む貴重な機会を失うことになる。これは、社会にとっても大きな損失になりかねない。
歴史的にみても、旧少年法(大正11年制定)はその適用年齢を18歳未満としており、現行少年法(昭和23年制定)で20歳未満に引き上げられるまで、民法の成年年齢(20歳)とも、選挙権年齢(昭和20年の法改正までは25歳、それ以降は20歳)とも一致していなかったのであるから、選挙権年齢と少年法の適用年齢とを一致させる理由はない。
なお、凶悪な少年事件が増加しており、これに対処するために「甘い」少年法を改正しなければならないとの議論が一般には見受けられるところである。しかし、こうした議論は誤っている。
まず、少年事件は増加しておらず、凶悪化もしていない。平成26年版犯罪白書によれば、少年による刑法犯の検挙人員は、昭和58年の31万7438人をピークとして平成7年まで減少傾向にあり、その後若干の増減を経て、平成16年からは毎年減少し続けており、平成25年は9万0413人と、昭和21年以降初めて10万人を下回った。少年10万人当たりの人口比でも、平成16年以降減少傾向にある。凶悪犯の検挙人員についても、昭和58年には殺人87人、強盗788人、強姦750人、放火389人であったのが、平成25年には殺人55人、強盗564人、強姦136人、放火137人となるなど減少傾向にある。したがって、少年事件の増加や凶悪化しているという事実はなく、そのために少年法を改正しなければならないということもない。
また、少年法による保護処分は成人に対する刑事処分に比べて「甘い」わけではない。少年事件は全件家庭裁判所に送致され、少年が非行に至った原因・背景や生活環境について、家庭裁判所や少年鑑別所の専門的知見を活かした調査や鑑別を行い、それら結果を踏まえ、継続的かつ人間的な接触に基づく教育的な働きかけを行うことによって少年の更生が図られている。そのため、非行事実だけをとらえれば、仮に成人であれば起訴猶予となったり、起訴されても執行猶予付き判決が言い渡されたりする可能性が高い事案であっても、少年事件においては、少年の資質や生活環境に深刻な問題があり教育的措置の必要性が高いと判断されれば、少年院送致となる可能性も十分あるのであり、刑事罰でないということだけをもって、保護処分を「甘い」というのは誤りである。加えて、検察官送致によって刑事罰が科される可能性も十分存する制度となっている。
以上のとおり、選挙権年齢の引き下げと連動させて少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げる理由はなく、また、若年者の成熟が遅れる傾向にある現状において、むしろ非行に至った18歳・19歳の少年に対する教育的措置の必要性は増大しているといえ、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることは、かえって社会を不安定化させることとなりかねない。 よって、当会は、少年法の適用年齢を引き下げることについては強く反対するものである。
2015(平成27)年8月27日
金沢弁護士会
会 長 西 村 依 子