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「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明
1 はじめに 2013年12月に国会に提出された,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」は,カジノを含む特定複合観光施設区域の整備推進を目的とし,そのための関係諸法令を整備する基本法的な性格を持ち,一定の条件のもとで刑法第185条及び第186条で処罰の対象とされている「賭博」に該当する行為を合法化し,カジノを解禁するものである。 本法案については,提出当初から様々な問題点が指摘され,議論が紛糾して審議が進まないまま衆議院の解散によって廃案となったが,2015年4月28日に再提出された。 しかし,以下の問題点から本法案を容認することは到底できない。
2 カジノ解禁推進法案の問題点
(1)カジノは刑法で処罰対象となっている「賭博」であること 本法案は,刑法第185条及び第186条で社会風俗を害する行為として処罰の対象とされている「賭博」行為そのものであるカジノを合法化して解禁するものである。違法行為の例外を認めることは極めて慎重になされるべきであるところ,後述するとおり,本法案の立法目的である経済活性化については十分な裏付けがあるとは言い難い。
(2)暴力団対策上の問題 暴力団が資金獲得のためカジノへの関与に強い意欲を持つことは容易に想定される。暴力団自身が事業主体となり得なくとも,従業員の送り込み,事業主体の下請,カジノ客に対する闇金融等といった,種々の脱法的方法でカジノ事業及びその周辺領域での活動に参入する危険性がある。
(3)マネー・ローンダリング対策上の問題 我が国も加盟している,マネー・ローンダリング対策・テロ資金供与対策の政府間会合であるFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の勧告において,カジノ事業者はマネー・ローンダリングに利用されるおそれの高い非金融業者として指定されている。我が国にカジノを設けた場合,仮にカジノ事業者に様々な義務を課したとしても,マネー・ローンダリングを完全に防ぐことは極めて困難であると考えられる。
(4)ギャンブル依存症の拡大・多重債務問題再燃の危険性 ギャンブル依存症は,慢性,進行性,難治性の重篤な疾患である。ギャンブル依存症から家族関係が悪化したり,多重債務に陥って犯罪や自殺に至ったりする者も少なくない。もしカジノを解禁すれば,ギャンブル依存症患者が更に増加するおそれがある。 また,近年の様々な多重債務者対策によって多重債務者が激減してきたが,ギャンブルは多重債務の原因の一つであり,カジノの解禁によって沈静化しつつあった多重債務問題を再燃させるおそれがある。
(5)青少年の健全育成への悪影響 合法的賭博が拡大することによる青少年の健全育成への悪影響も座視できない。とりわけ,IR方式(カジノが,会議場,レクリエーション施設,宿泊施設その他と一体となって設置される方式)は,家族で出かける先に賭博場が存在する方式であるから,青少年らが幼少のころからカジノに接することにより賭博に対する抵抗感を持たないまま成長することになりかねない。そのような環境では,青少年の健全な育成に悪影響をもたらすことは明らかである。
(6)経済的観点からの合理性の検証が不十分であること 本法案の立法目的に経済の活性化が掲げられているが,経済効果の有無は十分な検証の上に評価されるべきである。韓国,米国等では治安悪化などを理由にカジノ設置自治体の人口が減少し,あるいは多額の損失を被ったという調査結果も存在するにもかかわらず,経済的なマイナス要因の可能性について,客観的な検証はほとんどなされていない。
3 結論
以上のとおり,カジノ解禁が上記の様々な弊害をもたらすものであるにもかかわらず,本法案の立法目的である経済効果に対する検証が不十分なものである。 よって,当会は本法案に反対する立場を表明するとともに,その速やかな廃案を求めるものである。
2015年(平成27年)9月24日
金沢弁護士会 会長 西村依子