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特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書
特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書
第1 意見の趣旨
特定商取引法に,電話勧誘販売に関してはいわゆる「Do-Not-Call 制度」1(以 下「DNC」という。)を,訪問販売に関してはいわゆる「Do-Not-Knock制度」 2(以 下「DNK」といい,DNC 及び DNK を総称して「事前拒否者への勧誘禁止制度」と いう。)を直ちに導入することを求める。
第2 意見の理由
1 事前拒否者への勧誘禁止制度導入が必要であること
全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)に登録された相談件数によれば,訪問販売全体では 近年やや減少傾向にあるが,訪問販売については増加傾向にあり,電話勧誘販売についても増加傾向にある。
現行法は,飛び込み訪問勧誘や無差別電話勧誘の着手は許容したうえで,具体的な拒否の意思表示があった場合に再勧誘が禁止される仕組みであるため,巧妙な話術によって拒否できないケースが多いと考えられる。
とりわけ,断る力が低下する60歳代以上の高齢者の相談件数が,訪問販売では約53.6%を占め,電話勧誘販売では70.8%を占めており,高齢者被害の未然防止の観点からも,事前拒否者への再勧誘禁止の導入が必要である。また,近時の調査によれば,消費者の96%以上が訪問勧誘,電話勧誘を「全く受けたくない」と回答している状況にある。
加えて,訪問及び電話による不招請勧誘は悪質商法の温床となっている。訪問及び電話による不招請勧誘は,不意打ち的で一方的な勧誘となりがちであり,しかも,衆人の目の届かない密室で行われることが多いため,不招請勧誘をきっかけとして,消費者が不当又は不正な取引に巻き込まれる危険がさけられない。
したがって,消費者の意思を尊重した営業活動のあり方という点からも,事前拒否者への勧誘禁止制度の導入の必要性がある。
2 事前拒否者への勧誘禁止制度は既に多くの諸外国で導入されていること
⑴ 電話勧誘販売に対する規制の状況について
① ヨーロッパでは,ドイツ,オーストリア,ルクセンブルグではオプト・イン規制3 を,イギリス,アイルランド,フランス,イタリア,ノルウェー,デ ンマーク,オランダ,ベルギー,スペインではオプト・アウト規制4 をそれぞれ導入している。
② 南北アメリカでは,アメリカ,カナダ,メキシコ,ブラジル(州レベル),アルゼンチンで DNC が導入されている。
③ アジア・オセアニアでは,オーストラリア,インド,シンガポール,韓国で DNC が導入されている。
⑵ 訪問販売に対する規制の状況について
① オーストラリアでは,法律による国レベルでの対応を行っている。すなわち,国の機関(オーストラリア競争消費者委員会)がお断りステッカーを作成・配付しており,これに違反した訪問販売業者に対して罰金を命じた裁判例がある。
② アメリカでは,条例で DNK(ステッカー方式ないしレジストリ方式)を採用している地方自治体(市,町)があり,違反した場合に罰則を科すものも多い。
③ イギリスでは,各地方自治体においてお断りステッカーの配付に取り組んでいる。
3 事前拒否者への勧誘禁止制度が事業者の営業の自由を侵害しないこと
⑴ 刑法第130条前段は,正当な理由のない住居やその敷地への立ち入りを禁じているが,その保護法益は管理権者の管理権ないしは私生活の平穏と解されており,住居等の管理権や私生活の平穏を求める権利が法的に認められることは明らかである。そして,事前拒否者への勧誘活動は,住居等の管理権ないしは私生活の平穏を本人の意に反して侵害する行為に他ならず,「営業の自由」として保障される行為とはいえない。
⑵ 他方,事業者にも営業の自由があることは当然だが,その権利は絶対的なものではなく,住居等の管理権や私生活の平穏を求める権利との関係で制約を受ける場合があることもまた明らかである。また,事前拒否者への勧誘禁止制度は,営業活動についての時・場所・方法の規制に過ぎず,他のチャネルによる営業活動(消費者から承諾を得た勧誘,勧誘を拒絶していない者に対する勧誘,訪問・電話以外の方法による勧誘)を規制するものではなく,また,電子メール広告については事前の同意がある場合のみ送信できるというオプト・イン方式を採用していることとの比較からしても,管理者の管理権や私生活の平穏を求める権利を保護するためのミニマムの規制といってよい。
⑶ 以上によれば,事業者の営業の自由は,事業者の営業内容が悪質か否かを問わず,事前拒否者への勧誘活動まで許容するものでないことは明らかである。
4 よって,当会は,政府に対し,特定商取引法を改正し,訪問販売及び電話勧誘販売について,事前拒否者の勧誘禁止制度を導入することを求める。
2015年(平成27年)9月24日
金沢弁護士会 会長 西村依子
1 電話勧誘を受けたくない消費者が電話番号の登録を行い,登録者への電話勧誘を法的に禁止する制度。
2 お断りステッカーによる事前拒否に法的根拠を認める制度(以下「ステッカー制度」という。)と訪問勧誘を受けたくない消費者が住所等の登録を行い,登録者への訪問勧誘を法的に禁止する制度(以下「レジストリ制度」という。)の両方を含む意味で用いる。
3 招請・同意のない勧誘を禁ずるという方法での規制のこと。
4 拒否者に対する勧誘を禁ずる方法での規制のこと。