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テロ等組織犯罪準備罪(いわゆる「共謀罪」)法案の廃案を求める会長声明
テロ等組織犯罪準備罪(いわゆる「共謀罪」)法案の廃案を求める会長声明
1 当会は,昨年10月14日にテロ等組織犯罪準備罪の新設に反対する会長声明を発したところである。しかし,今般,政府は,「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画罪」(いわゆる「共謀罪」。以下,「テロ等組織犯罪準備罪」という。)の新設を内容とする組織犯罪処罰法改正案(以下,「本法案」という。)を国会に提出した。
「テロ等組織犯罪準備罪」の新設を内容とする本法案は,過去3度も国会に提出され,廃案となった「共謀罪」の新設を内容とする法案について,成立要件及び名称を変更したものである。具体的には,犯罪の主体を単なる「団体」から「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」とし,「組織的犯罪集団」とは「その結合関係の基礎としての目的が別表第三に掲げる罪を実行することにある」団体とされている。また,犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰することとし,その処罰に当たっては,計画をした者の一部が「その計画に基づき資金又は物品の手配,関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたとき」という要件が付されている。
2 しかし,共謀罪における「団体」との要件を「組織的犯罪集団」と変更した点については,依然として,本来は犯罪の実行を目的としていない団体の一部の構成員が一定の犯罪の共謀を行ったことをもって「組織的犯罪集団」であるとみなされるおそれが強く残っており,共謀罪に関して指摘されてきた問題点は解消されていない。「組織的犯罪集団」の事例として「テロリズム集団その他の」との例示は付け足されたものの,法律案においては第1条の目的においても,第2条の定義においても,「テロ」の文言は入っていないうえ,「その他」という曖昧な文言まで付されており,何ら限定がないのと同じである。
また,一旦,ある団体が「組織的犯罪集団」と認定されると,当該団体の本来の活動のための資金取得行為等が「犯罪を実行のための準備行為」とみなされる危険性が高く,「準備行為」の概念が拡大される危険性も解消されていない。
しかも,「組織的犯罪集団」を「別表第三に掲げる罪」を実行する組織としている点については,依然として277もの多くの犯罪類型が適用の対象となっている。「テロ等組織犯罪準備罪」との名称は,いわゆるテロを取締対象とするもののようにも思えるが,その実態は,到底テロとはいえない多くの犯罪を対象とするものである。また,このように多くの犯罪の準備行為を処罰することは,実行行為を中心に未遂の成立範囲を限定し,予備・陰謀を原則不可罰とする我が国刑法における基本原則と著しく矛盾するのであり,この点についても,共謀罪の問題点は全く解消されていない。
3 さらに,犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰するという本法案の本質は,「合意」を処罰対象とするという共謀罪の本質と全く変わりはなく,通信傍受や監視カメラ等を利用した捜査手法の拡大やそれに伴う捜査権の濫用のおそれ,市民の思想良心の自由,表現・通信・集会・結社の自由などを萎縮させるおそれといった問題点も残されたままである。これらの危険性は,通信傍受についての対象犯罪の拡大や2019年6月までに予定されている暗号技術を利用した特定装置の導入に伴う通信管理者の立会いの省略化によってさらに増幅される危険性がある。
また,具体的な行為を伴わない「合意」を処罰することは,計画に参加したとされる者の供述のみによって無実の者が巻き込まれる危険が高い。
4 我が国では,既に,内乱,外患及び私戦の各予備・陰謀罪,殺人,身代金目的略取等,強盗及び放火の各予備罪,凶器準備集合罪等が規定されており,組織的犯罪集団に関連した主要犯罪は,現行法によっても未遂に至る前から処罰が可能である。また,判例上,共謀共同正犯理論が確立しており,共謀をした者が予備行為に及べば共謀者全員に予備罪の共謀共同正犯が成立することになる。さらに,テロ行為についても,航空機の強取等の処罰に関する法律3条等の個別法で予備罪の処罰規定が存在するうえ,銃砲刀剣類や薬物・化学兵器の所持等を取り締まる実効的規制も存在する。このように,新たな立法をすべき立法事実が存在しないことは,共謀罪の問題点として従来から指摘されてきたとおりである。
5 そもそも,我が国は,国際連合の主要なテロ防止関連条約を13本締結しており,これらに対応する国内法をすでに整備している。他方で,政府が同法案を提出する理由として挙げる国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約は,国際連合のテロ防止関連条約には含まれていない。政府が,過去,共謀罪法案を提出した際にもテロ対策は理由として挙げられていなかったうえ,今回の法律案を閣議決定する前に与党に示された政府案にもテロ対策については言及がなかった。上記諸点にも照らし合わせると,本法案は,従来の共謀罪法案をテロ対策のための法案であると取り繕っているにすぎないというべきである。
6 以上のとおり,テロ等組織犯罪準備罪については,対象犯罪が非常に広範囲にわたること,「組織的犯罪集団」や「準備行為」の概念が拡大されるおそれがあること,そもそも立法事実が存在しないことなど,共謀罪の問題点として指摘されていた懸念がほとんど解消されていないうえ,先般の刑事訴訟法改正により捜査権限の濫用や冤罪の危険がさらに高まっている状況にある。
したがって,当会は,本法案を廃案とするよう強く求める。
2017年(平成29年)4月20日
金沢弁護士会 会長 橋本 明夫