-
「谷間世代」に対する不公平是正措置の速やかな実施を求める会長声明
「谷間世代」に対する不公平是正措置の速やかな実施を求める会長声明
1 司法修習生(司法試験を合格した者が裁判官・検察官・弁護士となるために義務付けられた実務研修課程にある者)に対して国が給与を支給する「給費制」は,戦後64年間にわたって裁判所法に基づいて実施されていたが,2011年(平成23年)に廃止され,同年に司法修習を開始した新第65期司法修習生からは,一切の給与が支給されなくなった。
その後,2017年(平成29年)4月に成立した改正裁判所法により,司法修習生に月額13万5000円の基本給付金等を内容とする給付金制度が開始し,一部とはいえ給費制が実質的に復活することとなった。
2 修習給付金制度の開始により,2011年(平成23年)から2016年(平成28年)に司法修習生を開始した,新第65期から70期の司法修習生だけが,一切の給与を支給されないという状況となった(いわゆる「谷間世代」の発生)。
谷間世代の多くは,生活費を含む司法修習中の資金として国から借入れをして司法修習をしていた(貸与金の基本額は年間299万円)。貸与申請には連帯保証人を2名立てること等の条件もあり,やむなく自身や家族の貯蓄を取り崩しながらの生活を余儀なくされた者や,親族から金銭を借入れていた者もいた。
3 谷間世代の法曹も,他の世代の法曹と同様に,日本における司法の担い手としての今後の活躍が期待されるところ,大学や法科大学院での奨学金債務に加えて司法修習中の貸与金債務を負担している影響により,必ずしも経済的利益に結びつかない,弁護士の使命である基本的人権の擁護等(弁護士法第1条「弁護士の使命」)のための公益的な活動に制約が生じるおそれがある。
そのため,当会は,2017年(平成29年)6月15日付「司法修習生への経済的支援を内容とする改正裁判所法成立にあたっての会長声明」において,谷間世代が重い経済的負担の影響により司法の担い手として活動に制約が生じないよう,従前の給費制及び現行の給付金制度下の司法修習生との間の不公平を是正するための措置を早急に検討することを求めるとともに,その検討結果が出るまでの間,無給修習世代が司法修習にあたって借入れた貸与金の償還を猶予する措置を講じるよう求めた。
4 しかし,その後7か月余りが経過したものの,具体的な不公平是正策が国会・法務省・最高裁判所において検討されることがないまま,谷間世代第1期生である新第65期司法修習生であった者の司法修習中に借入れた資金の償還(返済)の第1回目の期限が2018年(平成30年)7月25日に迫っている(基本額の貸与を受けた者で1年あたり29万9000円を10年間償還)。このまま償還が開始してしまうと,貸与を受けた者と貸与を受けなかった者に加えて,償還した者と償還しなかった者が出てくることで,検討すべき不公平是正策の内容がより複雑化することになり,速やかな不公平是正策の実施が困難になることが予想される。
5 現行の修習給付金制度は,法曹志願者(法科大学院入学者や司法試験受験者)の減少への対策を目的として法案提出された旨の説明がなされるが,そもそも法曹志願者の減少に歯止めをかけるべきなのは,法曹三者が日本の司法に必要不可欠な担い手であり,弁護士が国民のために果たす使命が極めて公共性が高く重要であるからである。谷間世代も他の世代と同様にこのような使命を果たすべき存在であるのに,経済的負担によってその使命を果たすことに制約が生じることは,志願者の減少と同様に司法全体の機能に影響を及ぼすものであるから,既に法曹となった者であるからという理由だけで谷間世代の経済的負担を放置するべきではない。
このように,谷間世代に多大な経済的負担が放置されている問題は,単に個々人の法曹が他の法曹と比較して不公平であることにとどまらず,国民のために弁護士が果たすべき使命等の実現に支障をきたすものであり,これは日本の司法において速やかに解決すべき重大な問題である。
6 そこで,当会は,国会・法務省・最高裁判所に対して,谷間世代のみに経済的負担が取り残された不公平を是正するための措置を速やかに検討することを改めて求めるとともに,最高裁判所に対しては,不公平是正策が実施されるまでの暫定措置として,司法修習資金の貸与を受けていた者についての償還を猶予するよう改めて求める。
2018年(平成30年)2月22日
金 沢 弁 護 士 会
会長 橋 本 明 夫