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生活保護基準について一切の引下げを行わないよう求める会長声明
生活保護基準について一切の引下げを行わないよう求める会長声明
第1 声明の趣旨
当会は,国に対し,厚生労働省の生活保護基準の引下げの方針を撤回し,一切の生活保護基準の引下げを行わないよう求める。
第2 声明の理由
1 厚生労働省は,2017年12月8日の第35回社会保障審議会生活保護基準部会(以下「基準部会」という。)において,2018年度から生活扶助基準本体や母子加算等を大幅に引き下げる方針を示し,同部会はこれを審議し,同月14日,報告書をとりまとめた。
厚生労働省の当初の方針の内容は,子どものいる世帯の生活扶助費は,都市部の夫婦子2人世帯で13.7%(2万5310円)も大幅削減され,母子加算が平均2割(都市部で2万2790円の場合4558円),児童養育加算については現行3歳未満の1万5000円から5000円の削減をそれぞれ行い,また,学習支援費(高校生で5150円の定額支給)は廃止,高齢(65歳)世帯の生活扶助費は,都市部の単身世帯で8. 3%(6600円),夫婦世帯で11.1%(1万3180円)の削減をそれぞれ行うというものであった。
しかしながら,厚生労働省は,各層から上記の大幅削減に対する批判を受けた結果,同月18日,2018年10月から3年かけて段階的に引き下げ,減額幅を最大5%に抑え,削減額を年160億円とする方針を決め,同月22日,内閣は,同方針に基づく生活扶助費削減を含む予算案を閣議決定した。
2 今回の引下げの考え方は,生活保護基準を第1・十分位層(所得階層を10に分けた下位10%の階層)の消費水準に合わせるというものである。
しかし,日本では,厚生労働省が公表した資料によっても,生活保護の捕捉率(生活保護基準未満の世帯のうち実際に生活保護を利用している世帯が占める割合)が2割ないし3割程度と推測され,第1・十分位層の中には,生活保護を受給することなく生活保護基準以下の生活を余儀なくされている人たちが多数存在する。この層を比較対象とすれば,生活保護基準を引き下げ続けることにならざるを得ず,合理性がないことは明らかである。特に,第1・十分位層の単身高齢世帯の消費水準が低過ぎることについては,基準部会においても複数の委員から指摘がなされている。また,前記の基準部会による報告書も,子どもの健全育成のための費用が確保されないおそれがあること,一般低所得世帯との均衡のみで生活保護基準を捉えていると絶対的な水準を割ってしまう懸念があることに注意を促しているところである。
3 いうまでもなく,生活保護基準は,憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であり,最低賃金,就学援助の給付対象基準,介護保険の保険料・利用料や障害者総合支援法による利用料の減額基準,地方税の非課税基準等の労働・教育・福祉・税制などの多様な施策の適用基準と連動している。生活保護基準の引下げは,生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすとともに,生活保護を利用していない市民生活全般にも多大な影響を及ぼすのである。
厚生労働省は,当初の大幅削減方針に対する批判に配慮し,減額幅を最大5%にとどめ,段階的に減額するという修正を行い,一応の対応を行ったかのように見える。しかし,5%であっても,受給世帯全体の約67%の世帯が減額となる大きな削減であるし,削減の根拠に合理性がない以上,削減幅を減らしたから許されるというものではない。さらなる生活保護基準の引下げそのものが,これまでの度重なる生活保護基準の引下げによって既に「健康で文化的な最低限度の生活」を維持できていない生活保護利用者をさらに追い詰め,市民生活全般の地盤沈下をもたらすものであり,到底容認することはできない。
なお,当会は,これまでの度重なる生活保護基準の引下げ及び生活保護法の改悪に対しても,2012年12月27日,「生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明」を表明し,2013年8月7日,「生活保護法改正法案の再提出に反対する会長声明」を表明してきた。
4 よって,当会は,厚生労働省の生活保護基準の引下げの方針を撤回し,一切の生活保護基準の引下げを行わないよう求めるものである。
2018年(平成30年)2月23日
金 沢 弁 護 士 会
会長 橋 本 明 夫