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東京医科大学医学部の入学試験における女性差別に抗議する会長声明
東京医科大学医学部の入学試験における女性差別に抗議する会長声明
東京医科大学内部調査委員会による平成30年8月6日付調査報告書によると、東京医科大学は、少なくとも医学部医学科における平成18年度の入学試験から女性に不利となるように得点調整(減点)を行い、女性の合格者を減らしていたという実態が明らかとなりました。
女性であるだけで不利益な得点調整を行うことは、性別を理由とする差別にあたり、法の下の平等(憲法14条1項)に違反することは明白です。さらには、その能力に応じてひとしく教育を受ける権利(憲法26条1項)、性別によって教育上差別されないとする教育の機会均等(教育基本法4条1項)に違反し、また、医学部の入学試験という性質上、職業選択の自由(憲法22条)を奪うことにもなります。
上記調査報告書によれば、東京医科大学が得点調整を行ったのは、「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる」ことが理由だと記されています。
しかしながら、上記のような理由は医療現場での女性労働者に対する偏見に他ならず、いまだに医療現場においては男女の役割分担という差別的意識が根強く残っているものといえます。
男女共同参画社会が国民に広く認知され、女性の活躍の推進が求められている現代において、大学という高度な専門分野を学ぶ教育機関の入学試験において女性に対する差別的取扱いが常態化していたことは時代に逆行しており甚だ遺憾です。
女性差別の根本に上記のような偏見があるとするならば、問題を解消するために、医療現場における長時間労働等の労働環境の改善に力を入れることが先決です。公正・公平でなければならない入学試験において、得点調整により女性の合格者を意図的に減らすことはあってはならないことです。
また、東京医科大学における得点調整は、大学合格を目指し多くの貴重な時間を受験勉強に費やしている受験生に対する冒涜行為に他なりません。
当会としては、東京医科大学に対し、二度と女性に対する差別的取扱いが発生しないよう、今回の事態を真摯に受け止め、十分な調査を行い、再発防止のための監督体制を整えるとともに、得点調整が原因で本来合格するはずであるにもかかわらず不合格とされた受験生に対する救済措置を早急に行うことを求めます。一部救済措置は公表されていますが、救済措置は公正・公平に行われなければならず、不合格とされた受験生の一部だけが救済される事態とならないよう、不合格とされた受験生全体に配慮された措置が求められます。
また、国に対しては、東京医科大学における入学試験において得点調整が行われた実態を調査し、同様の事態が起こらないよう、公正・公平な試験を実現するための施策を講じるとともに、今回の件を機に、医療現場における労働環境の問題を調査し、是正するための施策などの対応を早期に始めることを求めます。
以上
平成30年12月3日
金沢弁護士会会長 小堀 秀行