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死刑執行に抗議する会長声明
当会は、下記のとおり会長声明を発表しましたので、お知らせいたします。
死刑執行に抗議する会長声明
1 2019年(令和元年)12月26日、死刑確定者1名に対して死刑が執行された。
日本弁護士連合会が、第59回人権擁護大会(平成28年10月7日)において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択したにもかかわらず、今回、死刑が執行されたことは極めて遺憾である。
2 死刑は重大な人権侵害である
死刑は、生命を剥奪するという刑罰であり、国家による重大かつ深刻な人権侵害である。いかなる理由を付しても、国家が国民の生命を剥奪することは許されない。これは、先の戦争等を通して、私たちが歴史上学んできたことである。
3 死刑には誤判・冤罪の危険性がある
また、刑事司法制度は人の作ったものであり、その運用も人が行う以上、誤判・冤罪の可能性が常に存在する。そして、死刑は他の刑罰と異なり、全ての根元にある生命そのものを奪うものであるから、一旦執行されると取り返しがつかないことも論を俟たない。
日本では、1980年代に免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件という4件の死刑事件について再審無罪が確定したことを契機に、誤判・冤罪の危険性と重大性が強く認識されるようになった。
4 死刑の犯罪抑止効果には疑問がある
そもそも、死刑制度に他の刑罰に比べ犯罪抑止効果が認められるかどうかについては、長い間論争が続けられてきた。しかし、犯罪抑止効果があることを実証した研究はなく、むしろ多くの研究はそのような効果の存在に疑問を呈しているのが実情である。
加えて、日本の凶悪犯罪は減少傾向にあり、殺人(予備・未遂を含む。)の認知件数は、1978年から2000件を下回り、2013年以降は1000件を下回っている。殺人発生率(既遂)も人口10万人あたり0.28件であり、218か国中211番目である。すなわち、日本は凶悪犯罪が最も少ない国の一つであり、本来死刑により凶悪犯罪を抑止する必要性は低いと言える。
したがって、犯罪抑止効果を理由に死刑存続を主張するべきではない。
5 国際的趨勢は死刑廃止に向かっている
死刑の廃止は国際的な趨勢であり、2015年12月末日現在、法律上又は事実上の死刑廃止国は140か国に及び、世界で3分の2以上を占めている。しかも、実際に死刑を執行した国はさらに少なく、2015年の死刑執行国は日本を含め25か国のみである。なお、OECD(経済協力開発機構)加盟国34か国のうち、死刑を国家として統一して執行しているのは日本だけである。
その上、国連の自由権規約委員会、拷問禁止委員会や人権理事会が、死刑執行を停止し死刑廃止を前向きに検討するべきであるとの勧告を何度も行っているにもかかわらず、日本は死刑の執行を繰り返しているのである。
6 犯罪被害者・遺族の支援の課題
犯罪により命が奪われた場合、被害者の失われた命はかけがえのないものであり、これを取り戻すことはできない。このような犯罪は許されるものではなく、遺族が厳罰を望むことは自然なことである。
しかし、当初は死刑を望んでいたにもかかわらず、実際に死刑が執行されても悲しみは何一つ癒されなかったと述べる遺族も存在する。また、死刑の執行が真の問題解決につながると考えない遺族も存在する。
上述のとおり、死刑制度から誤判・冤罪の危険性を払拭できないことからすると、遺族の心情を慮ったとしても、結局は、死刑により犯罪者の命を奪うべきではないとの結論に至る。無辜の処罰は、刑事手続に携わる者としては決して看過できない。
犯罪被害者・遺族に対する支援は、当会を含め社会全体の重要な責務であり、経済的、心理的な支援を通じ、苦しみを緩和するためのシステムを構築することなどにより成し遂げられるべきものである。したがって、当会は、犯罪被害者・遺族に対する支援制度の改善・向上などにも全力を挙げて取り組む所存である。
7 よって、当会は、今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、政府に対し、死刑の執行を直ちに停止し、速やかに死刑制度の廃止を目指すことを求める。
以 上
2020(令和2)年1月24日
金沢弁護士会会長 坂井美紀夫