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石川県内の全市町に犯罪被害者等支援条例の制定及び実効的運用を求める会長声明
石川県内の全市町に犯罪被害者等支援条例の制定及び実効的運用を求める会長声明
金沢弁護士会(以下「当会」といいます)は、石川県内の全ての市町において、犯罪被害者等を支援するための条例が制定され、実効的に運用されることを希望します。
1 犯罪被害者等支援の動き
犯罪被害者等支援の動きは、少しずつではありますが、拡充されてきました。
平成16年には「犯罪被害者等基本法」(以下「基本法」といいます)が制定され、犯罪により害を被った者及びその家族又は遺族(以下、「犯罪被害者等」という)の権利や支援を受けるための施策について、国及び地方公共団体の責務が規定されました。
その後、平成20年には「犯罪被害者等給付金支給法」が「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」に改正され、給付制度は、遺族給付金の引き上げや、重傷病給付金の給付期間が延長になるなどの改善が認められます。
また、基本法を根拠に策定される「犯罪被害者等基本計画」は第3次を数え、支援の推進体制が図られてきました。
2 犯罪被害者等支援の現状
もっとも、犯罪被害者等支援の動きは、道半ばにあります。
基本法第5条には、地方公共団体は、犯罪被害者等の支援に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を負うと規定されています。また、第3次犯罪被害者基本計画にも、今後講じていく施策として「地方公共団体との連携・協力」が謳われているにもかかわらず、未だ複数の県において、条例制定が未整備となっています。
石川県では、令和3年4月1日から犯罪被害者等支援条例が施行され、同条例に市町との連携・支援が規定されています。
しかしながら、県内の市町における条例制定状況をみますと、犯罪被害者等への支援を定める条例を制定していても、安全で安心なまちづくり推進条例の一部を構成しているにすぎないものがほとんどであり、犯罪被害者等支援に特化した条例(以下「特化条例」という)を制定している市町は極めて限定的です。
よって、基本理念、市町の責務のほか、相談・損害回復・経済的支援、日常生活の支援などの基本的施策を定め、自治体職員が、かかる条例を根拠に、安定・充実した施策を実行することを可能とする特化条例の制定が求められます。
また、既に特化条例が制定されている市町においても、当該条例を法的根拠として、具体的な支援に繋げ、また、国、県、及び民間支援団体などの支援関連機関との連携を図る等、より実効的に運用されることを期待するものであります。
3 犯罪被害者等支援条例の必要性
(1)身近な市町による条例制定の必要性
市町レベルでの条例制定に大きく期待される効果としましては、犯罪被害に遭った地域の方々を、その地域全体で支えるという意思が明確となる点が挙げられます。
加えて、単なる安全で安心なまちづくり推進条例の一端としてではなく、犯罪被害者等支援に特化された条例が制定されることで、市町の責務や支援内容、犯罪被害者等の権利が明確になり、当該市町としての計画的で継続的な支援活動が可能となります。
(2)身近な市町による支援の重要性
言うまでもなく、犯罪被害者等支援は、初期対応が重要であり、きめ細やかな対応が求められます。その充実のためには、犯罪被害者等にとって身近な存在である市町による支援が欠かせません。
全ての者がある日突然、被害に巻き込まれる可能性があります。特に被害者が亡くなった事件では、関係者は身体的精神的にも疲弊する中で、近親者の死を悼む余裕もないまま、複数の役所の複数の窓口へ出向き、様々な行政手続に当たらなければなりません。そのたびに、被害に関し説明することが求められているのが現状です。このような状況で、担当窓口の職員に適切な配慮と知識が求められるのは明らかです。
警察庁の呼びかけにより、平成31年4月までに、全ての市町に総合的対応窓口が設置されました。石川県下の各市町役場の担当窓口も掲載されておりますが、各窓口において、現場の自治体職員が適切に対応し、充実した支援を継続的かつ効果的に実践するには、条例による法的根拠が必要であることは明らかです。
(3)より身近な自治体として求められる役割
この点、広域の地方公共団体である県には、予算や人員を背景にした施策を定めることが求められるのに対して、より市民生活に寄り添う存在である市町では、第一次的な相談窓口としての役割や、具体的な住民への支援を実施する内容を定めることが求められています。
そして市町では、住居の確保、雇用支援、家事・育児・介護などの衣食住に関わる直接支援、保健医療の支援など、被害者のためにできることが多岐にわたります。
これらの支援活動を市町の立場から適切に運用するためにも、市町による条例制定は不可欠といえます。
(4)先駆的取組みが実施されている市町の例
例えば、転居を余儀なくされた被害者への公共住宅等への入居条件の緩和や抽選を不要とする等、何らかの配慮をする市町は多くあります。
また、静岡県藤枝市などでは、住居の支援のみならず、電化製品など日常生活に必要な物品貸与を定め、さらに被害により経済的困窮に陥った場合には、医療費助成、税金の減免、子供の保育料減免、国民年金保険料減免などを受けることができるなどきめ細やかな支援を行っています。
さらに先進的な事例としては、名古屋市が、名古屋市犯罪被害者等支援条例を制定し、犯罪被害者等への相談対応、役所への手続同行、当市の支援事業の申込・受付支援、関係機関への案内などを行っていることが挙げられます。
当市の支援事業には、支援金などの経済的支援のほか、ホームヘルプサービスや配食サービスなどの日常生活支援、そして、市営住宅のあっせん、一時避難施設宿泊制度等のその他の支援がメニューとして用意されています。これらの施策を「名古屋市犯罪被害者等総合支援窓口」を介してきめ細やかな対応をもって実施しています。
石川県内でも、既に特化条例が制定されている市町を含め、こうした先進事例を参考に、被害者のニーズに応じた支援を行うための議論が進められることを期待します。
(5)法的根拠に基づく継続的な行政サービスの実現
これまで述べてきた通り、市町が犯罪被害者等支援を充実させていくにあたっては同条例を制定し、支援の法的根拠を明確にし、継続性・永続性を担保し、確実に質の保証された支援を実現する必要があります。
そして、このような支援の有無が、住む地域によって左右されることは速やかに解消されるべきことからしても、市町における犯罪被害者等支援条例の制定は必要です。
4 結語
石川県において同条例が制定された今こそ、県内における市町にも広く犯罪被害者等支援条例を整備する時期です。
そして、制定する条例には、自治体職員への犯罪被害者等支援に関する研修の実施(人材育成)、専門的な職員を配置した総合支援窓口の設置、既存の住民サービスの犯罪被害者等支援への活用、犯罪被害者等を対象とした支援事業の整備等(法律相談などを含む)を盛り込み、実効的に運用されることを求めます。
以上
令和3年8月31日
金沢弁護士会
会長 塩 梅 修