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選択的夫婦別姓制度の導入を求める会長声明
選択的夫婦別姓制度の導入を求める会長声明
1 本年6月23日、最高裁判所大法廷は、婚姻に際し夫婦同姓を強制する民法750条及び戸籍法74条1号について、2015年(平成27年)12月16日の最高裁大法廷判決を踏襲し、婚姻の自由を定める憲法24条に違反するものではないとして、合憲と判断するとともに(以下、「本年大法廷決定」という。)、「この種の制度の在り方は、平成27年大法廷判決の指摘するとおり、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」として、国会での議論を求めた。
しかしながら、以下に述べるとおり、現行の婚姻制度は明らかに憲法に違反するものであるにも関わらず、今回の大法廷決定は重大な憲法判断を実質的に回避しているに等しく、司法の役割を放棄するものであり、極めて不当である。
2 民法750条により、婚姻により一方当事者が姓を変えることを余儀なくされることは、本年の大法廷決定が引用する平成27年大法廷判決においても、「婚姻によって氏を改める者にとって、そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり、婚姻前の氏を使用する中で形成されてきた個人の社会的な信用、評価、名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合がある」と判断されている。
氏名が「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であつて、人格権の一内容を構成する」(最判昭和63年2月16日)ものであることに鑑みれば、事実上の不利益にとどまるものではなく、その意に反して「氏名の変更を強制されない自由」もまた、人格権の重要な一内容として憲法13条によって保障されるというべきである。
氏名という極めて重要な人格権を婚姻により自ら放棄せざるを得なくなり、そのことによって失う利益は重大かつ深刻なものである。したがって、やむなく姓を変更して婚姻しようとする当事者においては人格権の侵害により個人の尊厳を損なわれることになり、一方、姓の変更をせずに自己の人格権を守ろうとすれば自由に婚姻することはできないのであるから、現行の婚姻制度が個人の尊厳を保障した憲法13条、24条2項に違反することは明らかである。
この点の不利益は、「氏の通称名の使用が広まることにより一定程度は緩和されうる」という指摘もある。しかし、通称名使用は、そのように運用されるか否かは相手方の判断によるしかなく、仮に通称名使用が認められる場面であっても、通称名と戸籍名の同一性の証明が求められたりして、結局は、姓に関する人格的利益の喪失は生じ続けることになるのである。
すなわち、婚姻により一方当事者が姓を変えることを強制されるという問題は、姓の変更に伴う日常の不都合が解消されればいいというレベルの問題ではなく、婚姻により圧倒的に夫の氏が選択される現状、姓の変更を余儀なくされる大多数の女性の人権が侵害されているという問題であることが強く認識されなければならない。
事実上、婚姻に際し96パーセントもの女性が婚姻にあたり改姓を余儀なくされている現状が、女性のみに社会生活上の負担のみならず氏名の改変によるアイデンティティの喪失といった重大な権利侵害を課すことにつながることは、両性の平等に反するものであり、平等権を保障した憲法14条1項、24条2項に違反することも明白である。
3 選択的夫婦別姓制度は、今から25年も前の1996年(平成8年)に法制審議会によって答申されているにもかかわらず、未だ成立していない。また、日本は、1985年(昭和60年)に女性差別撤廃条約に批准しているが、国連の女性差別撤廃委員会から、2003年(平成15年)、2009年(平成21年)、2016年(平成28年)の3度にもわたって、夫婦別姓を認めない民法の差別的規定を是正するよう勧告を受けている。2017年12月に内閣府が実施した「家族の法制に関する世論調査」では、夫婦同氏を支持し、法改正の必要がないと回答した人が29.3パーセントであったにもかかわらず、選択的夫婦別姓制度の導入に賛成ないしは、法改正をしても構わないと回答した人は、42.5パーセントに及んでいる。
諸外国の中でも、条約に加盟している180を超える国のうち法律では夫婦の姓を同姓とするように義務づけている国は、現時点では、日本しかない。
このような現状をも踏まえ、平成27年大法廷判決及び本年大法廷決定はともに、現行の婚姻制度について、国会における議論を促していることから、国会は、民法及び戸籍法等関連法規の改正について早急に議論を行うべきである。
4 よって、当会は、国に対し、現行の婚姻制度につき、重大な憲法違反があることや社会及び国民の要請を重視し、速やかに選択的夫婦別姓制度を導入するよう強く求めるものである。
令和3年9月21日
金沢弁護士会
会長 塩梅 修