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国葬に反対する会長声明
国葬に反対する会長声明
2022年7月22日,政府は,安倍晋三元首相の「国葬」を実施するとの閣議決定を行った。しかし,「国葬」については,明確な根拠法がないという問題があるほか,個人の内心の自由,思想信条の自由の侵害にもなりかねないものであることから,当会は国葬実施に反対する。
1 法的根拠の不存在
明治憲法下では,「国葬令」が存在し,皇族と「国家に偉功ある者」に対して国葬が行われてきた。
しかし,この「国葬令」は戦後の日本国憲法の施行にともない1947年に失効している。国葬令は,なによりも憲法14条の平等主義に反するものであり,徹底した人格価値の平等を基本理念とする日本国憲法に適合しないからである。
これに対し,政府は,今回の国葬を内閣府設置法の4条にある「所掌事務」として実施しようとしている。しかし,内閣府設置法はいわゆる組織規範であって,「国の儀式」に内閣府が関わり得ることを定めた限りのものであり,「国の儀式」に国葬が含まれるのか,国葬の実施はいかなる場合にできるのかという実体的要件を定める根拠規範ではない。したがって,同法は国葬実施の根拠法にはならない。
もし,今回のような政府解釈が許されるのであれば,内閣府設置法を根拠に政府がいかなる儀式も実施できることになる。そのような結論は,「法律による行政の原理」に反し,国会を唯一の立法機関と定め三権分立を基本原理とする日本国憲法のもとでは容認し難い。
2 内心の自由,思想信条の自由(憲法19条)の侵害の懸念
政府は,国葬を実施する理由について,国全体として弔意を示すべきだと説明している。しかし,弔意を表するか否かは国民各自の自由である。それにもかかわらず国全体として特定の人物に弔意を示すべきとして国葬を実施することは,それ自体が個人の思想信条の自由を侵害することになりかねない。
また,政府は,服喪を強制するものではないとするが,弔意表明の「要請」があれば事実上の強制たり得る。現にすでに一部の地方自治体の教育委員会が学校現場に「国葬」の際の半旗の掲揚を求めたという報道もあり,このような同調を求める動きは今後も各所で拡がることが予想される。
このように,「国葬」の実施は,国民に対して特定の個人に対する弔意を事実上強制する契機をはらみ,個人の内心の自由,思想信条の自由を侵害する懸念がある。
以上述べた理由により,当会は,基本的人権擁護と社会正義の実現を使命とする法律家団体として,安倍元首相の「国葬」実施に反対する。
2022年9月16日
金沢弁護士会 会長 二木 克明