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再審に関する法改正を求める会長声明
再審に関する法改正を求める会長声明
現在の刑事訴訟法には再審手続に関する規定が僅か19か条しかなく(435条ないし453条)、とりわけ審理の在り方については、445条が「必要があるときは」「事実の取調」をさせることができる旨を定めるのみである。そのため、再審請求事件における審理の進め方は、裁判所によって様々である。能動的かつ積極的に活動する裁判所がある一方で、事実の取調をするどころか、進行協議期日を設けることさえせず、突然、再審請求棄却決定を請求人や弁護人に送達する裁判所もある。これが「再審格差」と呼ばれる問題である。
特に、証拠開示における再審格差は深刻である。再審請求事件においても証拠開示は極めて重要であるところ、裁判所の積極的な訴訟指揮によって大量の証拠開示が実現した事件がある一方で、訴訟指揮に極めて消極的な態度を取る裁判所もある。こうした実情を受けて、刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成28年法律第54号)附則9条3項は、「政府は、この法律の公布後、必要に応じ、速やかに、再審請求審における証拠の開示......について検討を行うものとする」と規定したが、今なお、再審請求事件における証拠開示については法制化のめどが全く立っていない。
また、再審開始決定に対する検察官の不服申立ては、幾つもの著名な冤罪事件において、無罪判決を遅らせる結果になった。研究者も、夙に、こうした実情を踏まえて、「請求審の審理が六号事由をめぐって全面的に展開されたような場合は即時抗告を控え、再審公判の場で真実解明に努めるのが、少なくとも運用として適切だと思われる」(松尾浩也『刑事訴訟法(下)』(弘文堂、新版補正第2版、1999年)276頁)などと指摘してきた。
しかし、再審開始決定に対する検察官の対応は、一向に改まる気配を見せない。そこで、こうした状況を抜本的に改善するためには、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止する法改正を行うほかない。
さらに、通常審による誤判の原因の検証も急務である。誤判の原因を検証し、再発を防止するためには、独立した第三者委員会による検証を行うことが有効であると考えられる。通常審に直接関与した裁判官や検察官が自らの誤りを検証することは困難である。特に検察官については、のちに再審無罪判決が確定したとしても、請求人こそが真犯人であるという内心を払拭することができず、十分な自省に至ることができないというのが実態であると思われる。
再審による無罪の判決は、特にそれが重大な事件に関するものであるときは、刑事司法の運用に関する痛切な警告となり得るのであって、誤判の原因を解明し、再発の防止に努めることが必要である(前掲・松尾279頁)。
よって、当会は、上記のような再審制度の問題を踏まえて、国に対して、以下のとおり、刑事訴訟法その他の関連法令を整備し、再審に関する法改正を行うことを求める。
1 証拠開示制度の創設
(1)再審の請求をしようとする者又は弁護人が、検察官に対して、再審請求の意向を示したときには、検察官は、以後、通常審において提出された証拠のみならず、公判未提出証拠についても保管する義務を負うこと
(2)前項の意向が示されたときには、検察官は、国が保管する証拠(公判未提出証拠も含む。以下同じ)の全てを記載した証拠目録を直ちに作成し、その証拠目録を、再審の請求をしようとする者又は弁護人に開示する義務を負うこと
(3)再審の請求をしようとする者、請求人又は弁護人が、検察官に対して、国が保管する証拠の開示を請求したときには、検察官は、直ちにこれを開示する義務を負うこと
(4)前項の請求を受けた検察官が、請求にかかる証拠の全部又は一部の開示をしないときには、裁判所は、請求人又は弁護人の請求により、検察官に対して、未開示証拠の全てを直ちに開示するように命令する義務を負うこと
2 再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止
3 再審無罪となった事件について、通常審において有罪となった原因を独立して検証するための第三者委員会の設置
以上
2023年(令和5年)1月27日
金沢弁護士会
会長 二木 克明