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改正少年法における特定少年の実名等の公表及び報道に関する会長声明
改正少年法における特定少年の実名等の公表及び報道に関する会長声明
令和3年5月21日、「少年法等の一部を改正する法律」(以下「改正少年法」という。)が可決成立し、令和4年4月1日に施行された。改正少年法は18歳または19歳の少年を「特定少年」と定義した上で、同法第68条は、特定少年のときに犯した犯罪について公判請求された場合に、少年の氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等により当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真について、その報道(以下「推知報道」という。)の禁止を解除した。
そして、本年4月21日、東京地方検察庁立川支部は、石川県出身の特定少年についての実名を公表し、一部の報道機関が、実名を含む推知報道を行った。
改正少年法の推知報道の禁止の一部解除に対しては、当会は、令和3年7月6日付「改正少年法が同法の目的や理念に適うよう運用されることを求める会長声明」及び令和5年3月24日付「改正少年法における特定少年の実名等の公表及び報道に関する会長声明」において反対の立場を表明しているところである。
改正少年法においても、特定少年は少年法の適用を受ける少年であり、少年法の健全育成の趣旨が妥当し、更生の機会は十分に与えられる必要があることに変わりはない。いったん少年の実名等が公表され報道がなされると、インターネットが普及した現代社会においては瞬く間に広がり、半永久的に閲覧が可能となり、将来にわたって少年の更生の阻害となるおそれが極めて強い。
推知報道の禁止が及ばないということが、少年の推知事項を公表、報道すべきということに結び付くものでは決してない。今回の事案においても、東京地検立川支部の実名公表があったにもかかわらず、事件の内容や少年法の理念などを踏まえて、報道機関としての主体的な判断により実名報道を行わなかった報道機関が見られたことは、高く評価される。
刑事裁判においては有罪判決が確定するまで、いわゆる無罪推定の原則が適用されるし、起訴された罪名とは別の罪名が認定されることもありうる。また、少年法55条において、裁判所は事実審理の結果、少年の被告人を保護処分に付するのが相当であると認めるときは、決定をもって事件を家庭裁判所に移送しなければならないとされている。このように、法制度上からも起訴された段階で直ちに推知報道を行うことは望ましくない。
よって、特定少年の健全育成及び更生の機会を保障するため、検察庁に対しては、改正少年法の下での実名公表を控えること、報道機関に対しては、検察庁が特定少年の実名を公表するか否かにかかわらず推知報道を控えることを、強く求める。
以上
令和5年(2023年)5月8日
金沢弁護士会
会長 織田 明彦