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特定商取引に関する法律の抜本的改正を求める意見書
特定商取引に関する法律の抜本的改正を求める意見書(PDF書類)
特定商取引に関する法律の抜本的改正を求める意見書
第1 意見の趣旨
特定商取引に関する法律の一部を改正する法律(平成28年法律第60号)附則第6条に基づく「所要の措置」として、以下のとおり、特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)の抜本的改正を求める。
1 訪問販売・電話勧誘販売について
⑴ 勧誘拒否者に対する訪問販売の規制
訪問販売につき、家の門戸に「訪問販売お断り」と記載された張り紙等を貼っておくなどの方法によりあらかじめ拒絶の意思を表明した場合が、特商法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにすること。
⑵ 勧誘拒否者に対する電話勧誘販売の規制
電話勧誘販売につき、特商法第17条の規律に関し、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる登録制度を導入すること。
⑶ 勧誘代行業者に対する規制
訪問販売及び電話勧誘販売につき、その契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、特商法上の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすること。
⑷ 訪問販売業者、電話勧誘販売業者の登録制
訪問販売及び電話勧誘販売を行う者は、国又は地方公共団体に登録をしなければならないものとすること。
2 通信販売について
⑴ インターネットを通じた勧誘による申込み・契約締結についての行政規制、クーリング・オフ及び取消権の付与
通信販売業者がインターネットを通じて消費者を勧誘し、消費者が申込みを行い又は契約を締結した場合について、行政規制を設けること、並びに消費者によるクーリング・オフ及び取消権を認めること。
⑵ インターネットを通じた通信販売における継続的契約の中途解約権
インターネットを通じた通信販売による継続的契約について、消費者に中途解約権を認めること及び中途解約の場合の損害賠償額の上限を定めること。
⑶ 解約・返品に関するインターネット通信販売業者の受付体制整備の義務化
通信販売業者がインターネットを通じて申込みを受けた通信販売契約について、契約申込みの方法と同様のウェブサイト上の手続による解約申出の方法を認めること及び迅速・適切に解約・返品に対応する体制を整備することを義務付けること。
⑷ インターネット広告画面に関する規制の強化
インターネットの広告画面及び申込画面において、契約内容の有利条件や商品等の品質・効能の優良性を殊更に強調する一方、有利性や優良性が限定される旨の打消し表示が容易に認識できないものを特商法第14条第1項第2号の指示対象行為として具体的に禁止すること。また、広告表示等において事業者が網羅的で正確かつ分かりやすい広告を行うこと(広告表示等における透明性の確保)を法令等で明確化すること。
⑸ インターネットの広告表示等を途中で止めた場合であっても行政処分が可能であることの明示
通信販売業者が不当なインターネット広告表示等を中止した場合であっても、行政処分(指示処分及び業務停止命令)が可能であることを明示すること。
⑹ インターネット上の広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示・提供義務
通信販売業者がインターネット上で契約の申込みを受けた場合、消費者が申込み過程で閲覧した広告や勧誘過程の動画を一定期間保存する義務及び消費者に対して保存内容を開示・提供する義務を負うものとすること。
⑺ 連絡先が不明の通信販売事業者及び当該事業者の勧誘者等を特定する情報の開示請求権(詐欺等加担者情報開示請求権)
特商法第11条第6号及び同法施行規則第23条第1号又は2号の販売業者等の氏名等の表示義務に違反する広告又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者、プラットフォーム提供者その他の関係者に対して、通信販売業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できることとすること。
⑻ 適格消費者団体の差止請求権の拡充
適格消費者団体の差止請求権について、前記⑴から⑷までの行政規制等に違反する行為等を請求権行使の対象に追加すること、及び前記⑸の場合に差止請求権行使の対象となる旨を明示すること等、その拡充を行うこと。
3 連鎖販売取引について
⑴ 連鎖販売業に対する開業規制の導入
連鎖販売取引について、国による登録・確認等の事前審査を経なければ、連鎖販売業を営んではならないものとする開業規制を導入すること。
⑵ 後出し型連鎖販売取引への適用対象の追加
特定利益収受の契約条件を設けている事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的として特定負担に係る契約を締結させ、その後に当該契約の相手方に対し特定利益を収受し得る取引に誘引する場合は、特商法の連鎖販売取引の拡張類型として規制が及ぶことを条文上明確にすること。
⑶ 不適合者に対する連鎖販売取引の勧誘等の禁止
連鎖販売取引を、①22歳以下の者との間で行うこと、②投資取引・投資情報等の利益収受型取引を対象商品・役務として行うこと、③借入金・クレジット等の与信を利用して行うことについて、禁止すべきであること。
⑷ 連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務の新設
連鎖販売取引について、収受し得る特定利益の計算方法等を特定負担に関する契約を締結しようとする者に説明しなければならないものとすること。
⑸ 連鎖販売取引における業務・財務等の情報提供義務の新設
連鎖販売取引について、業務・財産の状況等に関する情報を特定負担に関する契約を締結しようとする者や加入者に開示しなければならないものとすること。
第2 意見の理由
1 特商法の抜本的改正の必要性
特商法は、消費者トラブルが生じやすい特定の取引類型を対象に事業者による不公正な勧誘行為等を規制することで、消費者が受ける損害を未然に防止し、よって消費者の利益を保護することを目的とする法律である。同法は、問題となる取引類型を規制するために幾度となく改正を重ねてきており、平成28年改正においては、附則第6条において、施行後5年を経過した場合、改正後の状況に検討を加え、所要の措置を講ずることを定めた。そして、平成28年改正が施行された平成29年12月1日から既に5年が経過しており「所要の措置」を講ずることが法的課題となっている。
この間の事情を見るに、改正法施行後も、全国の消費生活センター等に寄せられる消費生活相談は件数は年間90万件前後を推移し、その内、特定商取引に関する相談は、全体の54.7%という高い比率を占めており、特商法が消費者問題解決において果たす役割は大きいものといえる。特に、通信販売のうちインターネット通販に関する相談、訪問販売・電話勧誘販売に関する(特に高齢消費者被害)相談、及びマルチ取引の相談件数は多い状況である。
こうした状況に鑑み、当会は、上記で指摘した平成28年改正の5年後見直しを契機として、「所要の措置」として、特商法の抜本的見直しを求めるものである。
2 訪問販売・電話勧誘販売について
⑴ 勧誘拒否者に対する訪問販売の規制(趣旨第1項⑴⑵)
2014年度の消費者庁による意識調査で、訪問勧誘を「全く受けたくない」と回答している割合が96.2%に及ぶことや、判断能力等の低下により勧誘を断ることが十分期待できない消費者がいることを考えると、消費者が事業者の訪問に対して個別に対応せずに、事前にかつ簡易に契約を締結しない旨の意思表示をする方法(訪問勧誘拒否制度(Do Not Knock制度)、及び、電話勧誘販売について、電話番号を登録した消費者への電話勧誘を禁じる電話勧誘拒否登録制度(Do Not Call制度)等)を整備することが必要である。
⑵ 勧誘代行業者に対しての規制(趣旨第1項⑶)
特商法における訪問販売及び電話勧誘販売についての行為規制の核心は、その販売方法である訪問・電話による勧誘行為そのものにあり、契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、 特商法上の訪問販売及び電話勧誘販売の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすべきである。
⑶ 訪問販売業者、電話勧誘販売業者の登録制(趣旨第1項⑷)
訪問販売や電話勧誘販売は、店舗販売と比較して、無店舗で営業を行うことが可能であることから、信用力の低い事業者の参入も容易である。また、不正な行為を行いながら、その事業所の所在を変えて勧誘を繰り返すことも可能である。このような事態を避けるために、訪問販売や電話勧誘販売において、店舗販売に準ずる信頼を確保するため、事業者の登録制を採用すべきである。この点、国内では、滋賀県野洲市が条例により、訪問販売事業者の登録制を実施している。
3 通信販売について
⑴ インターネットを通じた勧誘による申込み・契約締結についての行政規制、クーリング・オフ及び取消権の付与(趣旨第2項⑴)
特商法の通信販売は、消費者がカタログを閲覧して申込みする形態や、インターネットで消費者が自らウェブサイトを閲覧して申込みを行う形態が想定されていたため、訪問販売のような不意打ち性、密室性、攻撃性といった要素がないとされ、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売において定められている、(ア)氏名等の明示、(イ)再勧誘の禁止、(ウ)不実告知の禁止、(エ)故意の事実不告知の禁止、(オ)威迫困惑行為の禁止等の行為規制が設けられていない。また、特商法の類型の中で通信販売のみクーリング・オフ制度や不実告知による取消権といった民事上の規定もない。通信販売においては、商品の引き渡し等から8日以内は契約の解除ができる返品制度はあるが、特約によって排除、変更することが可能である。
近年、通信販売で急増している消費者トラブルにおいては、消費者が積極的に通信販売業者のウェブサイトを閲覧して申込みをするのではなく、消費者が利用しているSNSを通じてメッセージが送られてきたり、SNS上の広告を見たりしたこと等がきっかけでインターネットを通じて事業者やその関係者から勧誘され、申込みに誘導される例が多い。その中には、いわゆる情報商材や出会い系サイト(サクラサイト)等を通じた広告が多い。かかる手段による勧誘は、消費者からすれば、突然一方的に示されるものであり、不意打ち性が高い点で、訪問販売や電話勧誘販売と同様の問題点がある。また、こうしたインターネットを通じた勧誘は、消費者のスマートフォンやパソコン等の私的領域内で行われ、一対一でのやり取りが中心となるため、密室性が高い点で、やはり訪問販売や電話勧誘販売と類似する点がある。また、SNS等による繰り返しの勧誘や、動画等も利用した勧誘は、攻撃性が高い点で訪問販売に類似し、インターネットを通じた勧誘は、相手が見えず、相手の素性や様子が分からないまま勧誘されるため、匿名性が高い点で電話勧誘販売と類似する。さらに、SNS等でのやり取りやウェブ説明会、動画サイト、無料通話アプリによる通話等に基づいて契約締結がなされる場合、契約の内容が曖昧・不確実になりやすい点でやはり電話勧誘販売と類似する点があるという特徴がそれぞれにある。インターネットを通じた勧誘でも、無料通話アプリの通話によって勧誘を受ける場合等、電話勧誘販売に該当する場合も多いが、事業者が通信販売該当性を主張しクーリング・オフに応じない事案が多発している。すなわち、通信販売が事実上の抜け穴として悪用されている実態が顕著なものとなっているのである。
こうしたことから、通信販売においても、消費者によるクーリング・オフ、不実告知及び重要事実の不告知の場合の取消権を規定するべきである。
⑵ インターネットを通じた通信販売における継続的契約の中途解約権(趣旨第2項⑵)
継続的契約の解約については、民法上、明確な規定はない。また、特商法においては、特定継続的役務提供契約については中途解約の規定があるが、特定継続的役務提供の指定役務に該当しない役務については特商法が適用にならず、他に継続的契約の中途解約を認める規定はない。また、商品の定期購入契約についても、中途解約を認める規定はない。
通信販売により継続的な役務提供契約を締結する場合、役務の内容を把握しづらく、消費者が契約内容を十分に理解しないままに契約を締結してしまうことが少なくない。実際に役務の提供を受けてみると消費者が想定していた役務の内容と異なったり、また、長期間の契約期間中に消費者側の事情が変わったりするなどして、契約が不要となり、解約が必要となるケースもある。しかし、継続的契約の場合、一度締結すると容易に解約できない場合もあり、消費者が負担する代金も高額になりがちである。また、解約できるとしても、高額な違約金を請求されるという問題がある。
以上のような問題点から、インターネット通信販売による継続的契約については、特定継続的役務提供と同様に中途解約権(理由を問わず将来に向かって契約を解消する解除の趣旨)を認め、その場合に消費者が負担する損害賠償額の上限を定めるべきである。
⑶ 解約・返品に関するインターネット通信販売業者の受付体制整備の義務化(趣旨第2項⑶)
インターネット上の通信販売において、事業者がウェブサイト上で購入申込みを受け付けていながら、ウェブサイト上での解約を受け付けていない場合がある。また、ウェブサイト上での解約手続が非常に分かりにくい、解約受付に際し、契約申込時以上の個人情報に関する証明資料等を要求する、「電話による解約を受け付ける」旨の表示に反して、電話がつながらず解約ができない等、解約・返品を困難にさせているケースがある。中には、消費者が解約・返品の連絡に難儀している間に解約申出可能期間が経過したことを理由に、解約・返品を拒まれるケースもみられる。
かかる状況を是正すべく、通信販売業者に対し、契約の申込みと同様の方法による解約申出を認めることを義務付けるべきである。
さらに、通信販売業者に対し、消費者からの解約申出に対する受付体制の整備義務を課すとともに、解約申出に対して迅速かつ適切に対応しなければならないことを義務づけるべきである。
⑷ インターネット広告画面に関する規制の強化(趣旨第2項⑷)
定期購入契約には、複数回の商品引渡しと代金支払を一つの契約で定めるケースと、一つの契約で1回の商品引渡しと代金支払を定めるが、中止の申出がない限り2回目以降の契約申込みがあったものとみなすケースなどがあり、それぞれにつき広告画面の表示内容が規制されている。
しかしながら、悪質な定期購入契約に関するインターネット広告画面の中には、消費者の誤認を招く不公正な表示がなされている事例が少なくないが、特商法第11条の広告表示義務の規定では、所要事項が広告のどこかに表示されていれば、それ自体に「著しい虚偽」又は「誇大な表示」がない限り、表示義務に違反していないと解される可能性がある。また、誇大広告等の禁止に該当するための要件(同法第12条)は「著しく」等と抽象的かつ不明確であるため、脱法を狙う事業者の行為を規制しきれていない。さらに、健康食品や化粧品についての定期購入契約では、商品の品質・効能等につき「著しく優良であると誤認させるような広告」によってトラブルが多発しているが、現在の広告規制では、優良誤認該当性の要件が抽象的かつ不明確であり、規制として不十分である。
そこで、インターネット広告画面について契約内容の有利条件と不利益条件、商品等の品質や効能等が優良等であることを強調する表示とその意味内容を限定する打消し表示を、それぞれ分離せず一体的に記載するルールを設けるべきである。
商品及び役務について自主的かつ合理的な選択の機会が確保されることは、消費者の権利である(消費者基本法第2条第1項)。
その権利実現のためには、上記方法にとどまらず、消費者が取得しようとする商品・役務に関して、事業者が網羅的で正確かつ分かりやすい広告表示等を行うこと(広告表示等における透明性の確保)を法令等で明確化すべきである。
⑸ インターネット上の広告表示等を途中で止めた場合であっても行政処分が可能であることの明示(趣旨第2項⑸)
通信販売業者が誇大広告等の禁止行為に違反した場合や、特定申込みを受ける場合の映像面における、人を誤認させるような表示の禁止(特商法第12条の6第1項)等に違反した場合は、主務大臣による行政処分を行うことができる(特商法第14条第1項柱書、第15条第1項柱書)。
ところが、行政処分の要件は、「通信販売に係る取引の公正及び購入者又は役務の提供を受ける者の利益が害されるおそれがあると認めるとき」(特商法第14条第1項柱書など)であるところ、通信販売業者は、インターネット広告や特定申込みを受ける場合の画面の表示の中止・削除を容易に行い、「利益が害されるおそれ」が消滅したと反論される余地を残している。
かかる点に鑑みれば、通信販売業者がインターネット広告や特定申込みを受ける画面の表示を中止した場合でも行政処分が可能であることを法令上明確にする必要がある。
⑹ インターネット上の広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示・提供義務(趣旨第2項⑹)
インターネット通信販売における定期購入契約のトラブルにおいては、購入者が通信販売業者に対し、一定期間の定期購入契約であることなどの契約条件が広告画面及び申込画面に適切に表示されていなかった旨を申し出ても、事業者側から適切に表示していた旨の反論されることがある。そして、消費者が事業者とトラブルになることを見越して広告・申込画面、広告・勧誘動画等を保存していることは多くなく、その内容を立証することは困難である。一方、インターネット上の広告・申込画面は、変更・削除が極めて容易であるため、トラブルとなった時点で申込時の画面から変更されている場合も多い。
こうした状況で、契約申込みに至る過程で閲覧した広告画面や実際に申込みを行った際の申込画面、広告・勧誘動画の内容を確認できなければ、購入者が取消権等を行使することは困難であるため、取消権などの実効性を確保するために、通信販売業者に対し、広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示・提供義務を認める必要がある。
また、インターネット通信販売においては、購入者がアフィリエイト広告等、通信販売業者から委託を受けた者による広告や動画を見て購入に至る場合も多いため、アフィリエイト広告等の画面・動画についても、保存・開示・提供義務を認める必要がある。
⑺ 連絡先が不明の通信販売事業者及び当該事業者の勧誘者等を特定する情報の開示請求権(詐欺等加担者情報開示請求権)(趣旨第2項⑺)
販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは、主務省令で定めるところにより、当該広告に、当該商品若しくは当該権利又は当該役務に関する表示が義務付けられており(特商法第11条)、そこには「販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号」が含まれる(同法同条第6号、同法施行規則第23条第1号)。これに反した場合、指示及び業務停止命令の対象となり得る(同法第14条柱書、第15条第1項)。指示及び業務停止命令の対象は販売業者又は役務提供事業者に限られる。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)は、発信者情報開示の対象となる権利侵害行為を「特定電気通信」(同法第2条第1号)、すなわち「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」によるものに限定している。
民事訴訟を提起するためには、当時者の氏名又は名称・住所及び電話番号の情報が必要であるが、特商法上の表示義務は、「広告をするとき」に限られているため、個別の勧誘時に販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号の表示義務が及ぶかは文言上明らかでない。さらに、プロバイダ責任制限法は、発信者情報開示の対象となる権利侵害行為を「特定電気通信」(同法第2条第1号)、すなわち「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」によるものに限定しており、詐欺的な広告、勧誘を経た通信販売による財産被害には用いることができない。そのため、結果的に、同法の発信者情報開示制度は利用できず、販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号を特定できないことがほとんどであり、民事上被害が回復されない状況となっている。
特商法第11条第6号及び同法施行規則第23条第1号又は第2号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者、プラットフォーム提供者その他の関係者に対して、通信販売事業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できることとする立法措置を講ずるべきである。
⑻ 適格消費者団体の差止請求権の拡充(趣旨第2項⑻)
以上の点についての実効性を確保するために、適格消費者団体の差止請求権の対象として、通信販売事業者による前記⑴において提案する取消権の対象となる行為、同⑴において提案するクーリング・オフや同⑵において提案する中途解約権を制限する特約や妨害行為、同⑶の解約等への受付体制整備義務に違反する行為、同⑷の広告規制等に違反する行為を追加するべきである。また、事業者が違反行為を中止した場合であっても、同種行為の再開のおそれがあるときは、前記⑸の行政処分のみならず、適格消費者団体の差止請求が可能であることを特商法に明示すべきである。
3 連鎖販売取引について
⑴ 連鎖販売業に対する開業規制の導入(趣旨第3項⑴)
マルチ取引に関する消費生活相談の件数は、年約1万件以上という状況が続いている。近年では、20歳未満及び20歳代の相談件数が約半数を占めるなど、若者がトラブルに遭う割合が増加しているという特徴がある。また近時は、投資取引、アフィリエイト等の副業、暗号資産(仮想通貨)といった、(紹介料などの特定利益とは別個の)配当などの利益をそれ自体で収受出来る物品又は役務を対象にした連鎖販売取引、いわゆる「モノなしマルチ」のトラブルが増加している。勧誘方法も、特に若者を対象に、インターネット等を利用したメール、SNS(コミュニケーションアプリ、マッチングアプリ)等によるものが増加しており、組織の実態、中心人物の特定やその連絡先を知ることができず、自分を勧誘した相手方の素性も分からないなど、被害の回復が困難なケースが増えている。
近時の連鎖販売取引の被害の特徴は上記のとおりであるが、連鎖販売取引の本質的特徴は現在においても変わりはない。すなわち連鎖販売取引は、新規加入者を獲得することにより得られる紹介料等(特定利益)を伴う取引のため、その利益の収受を目的に違法不当な勧誘が行われやすいだけでなく、新規加入者により更に勧誘が行われ組織が拡大しやすいという特徴を有する。このような特徴等から連鎖販売取引は、昭和51年に旧訪問販売等に関する法律が制定されて以来、度々大規模な被害を生じさせているだけでなく、令和2年度においても1万件以上の相談を生じさせている。このようなことからすれば、国民生活審議会が昭和49年の中間覚書でマルチ商法を直ちに禁止し登録制とすることを求めていたように、連鎖販売取引に登録制や事前確認制度等の開業規制を導入すべきである。
そして、規制の実効化及び被害救済の観点から、この開業規制に違反して連鎖販売取引を行った事業者は、刑事罰の対象とするとともに、当該取引の相手方は当該契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができるものとするべきである。
⑵ 後出し型連鎖販売取引への適用対象の追加(趣旨第3項⑵)
特商法における連鎖販売取引の要件は、「特定利益を収受し得ることをもって誘引し、特定負担を伴う取引をすること」と規定されている(同法第33条第1項)。しかし、近時、物品販売等の契約を締結した後に、新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む事例、つまり特定利益の収受に関する説明を後出しするマルチ取引、いわゆる「後出しマルチ」のトラブルが増えている。
後出しマルチは、大学生などの若者がターゲットにされ、投資に関する情報商材やセミナー、自動売買ソフト、副業のコンサルタント・サポートなどの利益収受型の物品又は役務の契約が先行してなされるものが多い。容易に利益が得られるかのような誘引行為により、借入れをしてまで契約の締結に至ったものの、勧誘時の説明と異なって利益が得られない事態となった場面で、他の者を勧誘して契約を獲得すれば特定利益が得られることを誘引文句として持ち出すことにより、借入金の返済に窮した契約者が自らも勧誘員として新規契約者の勧誘に走るという構造にある。そして、後出しマルチの手法により勧誘員となった者は、販売対象の利益収受型物品・役務の内容やそれを用いた投資に関する十分な知識がないままに、自らが陥れられたときと同様の説明をして新規契約者の勧誘をし、被害が拡大するという不当勧誘行為を連鎖させる構造が問題であり、規制の必要性が認められる。
このような事案に対応するために、特商法第33条第1項を改正して、現行法の連鎖販売取引の定義規定に後出しマルチを加えて、脱法的な後出しマルチ取引を防止する必要がある。そのために、特定利益を収受し得る契約条件と特定負担を伴う契約を組み合わせた仕組みを設定している事業者が、特定負担に係る契約を締結する際には特定利益の収受に関する契約条件の存在を説明せず、特定負担に係る契約を締結した後に特定利益を収受し得るための取引を勧誘することを連鎖販売取引の一類型として規定すべきである。
⑶ 不適合者に対する連鎖販売取引の勧誘等の禁止(趣旨第3項⑶)
若年者の被害や利益収受型の取引を利用した連鎖販売取引が増加することが懸念されること等から、連鎖販売取引を、社会経験不十分な22歳以下の若年者との間で行うこと、及び、投資取引・投資情報等の利益収受型取引を対象商品・役務として行うことを適合性に反する取引として禁止すべきである。
また、借入金・クレジット等の与信を利用する連鎖販売取引については、期待した利益が得られない場合において被勧誘者が多額の負債を抱えることとなる場合があること、借入金の返済やクレジット利用代金の支払に窮した被勧誘者が特定利益を収受するために違法不当な勧誘を行うことが予想されることから適合性に反する取引として禁止すべきである。
⑷ 連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務の新設(趣旨第3項⑷)
連鎖販売取引は、これに加入することで当該加入者及び他の構成員の販売活動により利益を得ることを目的とした投資取引の一種であると考えることもできる。また、新規加入者が後続の加入者を順次勧誘するという特性から、「必ず儲かる」等の不実告知や断定的判断の提供といった不当な勧誘が行われやすく、誤認による契約を招くおそれがある。
そこで、特定負担についての契約を締結しようとする連鎖販売を行う者には、その相手方に対し、①収受し得る特定利益の計算方法、②特定利益の全部又は一部が支払われないことになる場合があるときはその条件、③最近3事業年度において加入者が収受した特定利益(年収)の平均額、④連鎖販売を行う者その他の者の業務又は財産状況や特定利益の支払の条件が満たされない場合等により、特定負担の額を超える特定利益を得られないおそれがある旨の説明を義務付けるべきである。さらに、概要書面及び契約書面にも記載しなければならないものとするべきである。
⑸ 連鎖販売取引における業務・財務等の情報開示義務の新設(趣旨第3項⑸)
上記⑷と同様の理由から、①統括者がその連鎖販売業を開始した年月、②直近3事業年度における契約者数・解除者数・各事業年度末の連鎖販売加入者数、③直近3事業年度における連鎖販売契約についての商品又は権利の種類ごとの契約の件数・数量・金額、又は役務の種類ごとの件数・金額、④直近3事業年度において連鎖販売加入者が収受した特定利益(年収)の平均金額を概要書面及び契約書面に記載しなければならないものとするとともに、統括者には、これらの事項並びにその連鎖販売業に係る直近の事業年度における業務及び財産の状況を連鎖販売加入者に開示することを義務付けるべきである。
以 上
令和6年(2024年)1月26日
金沢弁護士会 会長 織田 明彦