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共同親権について、十分かつ慎重な審議を求める声明
共同親権について、十分かつ慎重な審議を求める声明
共同親権について、十分かつ慎重な審議を求める声明(PDF書類)
現在国会において、共同親権を導入する内容を含む民法等の一部を改正する法律案(以下「法案という」。)が審議されており、当会は、以下の懸念があることから、十分かつ慎重な審議を求める。
まず法案では親権の共同行使の例外事由として「子の利益のため急迫の事情があるとき」(法案第824条の二第1項第3号)を定め、その解釈につき、法制審議会家族法制部会では「父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時の親権行使をすることができず結果として子の利益を害するおそれがある場合」、具体的には、DVや虐待が生じた後、一定の準備期間を経て子連れ別居を開始する場合も急迫性が継続するとして、上記事由に含まれ得るという理解が共有された。しかし、かかる解釈は「急迫」という文言からは一般に想起されにくい。DV・虐待被害者が加害者から逃避することに対する委縮や被害者への支援の後退がないよう、文言について、慎重に審議をする必要がある。
次に、今後仮に改正法が成立・施行された場合、家庭裁判所はこれまで以上に大きな役割を果たすことになり、その負担増大は必至である。今般の改正に伴って増加が予想される子どもの監護に関する事件を始めとする各種家事事件を、適正かつ迅速に判断するためには、本庁・支部・出張所を問わず、裁判官、家裁調査官、書記官、調停委員等の人的体制を強化するほか、調停室、待合室等の物的体制を充実すること、及びそのための財源が確保されることが必須であり、この点は、日本弁護士連合会が2023年10月6日の人権擁護大会において行った「子ども・高齢者・障害者を含む住民の人権保障のために、地域の家庭裁判所の改善と充実を求める決議」で家裁調査官の絶対的な人数が不足しており、離婚事件等において子どもの意見が十分に確認されないまま親権者や面会交流条件等が決められてしまう例があること等も含め指摘したとおりである。
現状、地方によっては家庭裁判所において早期に期日が入らずに適時適切な手続きが望めず子の利益を害するおそれがあることは、看過できない。
また、離婚時、父母が、子どもの利益に照らして、適切な選択をするため、次のような点に留意した施策・関連立法も含めた審議が必要である。
第一に、婚姻中の父母にも及ぶ親権行使に関する規律も新たに設けられた(法案第824条の二第2、3項)。しかし、共同親権下において各親権者が単独で行使できる監護及び教育に関する日常行為と、それを超える重要な行為の具体的内容が不明である。
第二に、離婚する父母に対し、離婚後の親権選択に関する適切かつ正確な情報が提供され、メリット・デメリットを十分把握する機会を与えられ、真に自由な意思表明が担保された状態でその選択ができるようにする制度、及び円満な協議や履行を支える法的・経済的・心理的支援の提供体制が、関係各省庁連携の上で整備される必要がある。
第三に、子どもの意思を適切に尊重するためには、子どもの手続代理人制度のより積極的な活用が必要不可欠であり、そのためには、未成年者が扶助制度を単独で利用できるようにすべきである。そして、未成年者のみならず、必要な法的支援を受ける利用者のためにも、立替償還制度である法律扶助について、給付制への変更や償還免除拡充を実現すべきである。
第四に、既存の税制・社会保障制度におけるひとり親支援については、離婚後の共同親権・共同監護の導入により、子どもに不利益が生じることのないようにする必要がある。
また、日本弁護士連合会は、子どもの生活の安定確保という観点から、離婚後に共同親権を選択した時の監護者指定を必須とすべきと主張していたが、法案では必須としないものとされた点、親子関係における基本的な規律のなかに子どもの意見を尊重すべきことが明記されなかった点、「親権」という用語が維持された点、一定の場合に父母以外の第三者を子どもの監護者に指定することができる制度と未成年普通養子縁組の全件家庭裁判所許可制度が採用されなかった点、日本弁護士連合会が反対していた親以外の第三者との交流について新たな規律が設けられた点など、問題も残っている。
当会は、今後の国会での審議にあたり、課題として挙げた諸点につき、国会において、令和4年12月に家族法制の見直しに関する中間試案に対して実施したパブリックコメントの公開を行う、関係各方面からの意見聴取を広く行うなどして、十分に検討・審議されること、その内容につき正しく市民や行政機関へ十分周知されること、課題に対処するための施策や関連立法の議論が行われること、仮に改正法が成立・施行された場合も定期的に検証がなされ、必要に応じて見直しが行われることを強く要請するものである。
以上
2024年(令和6年)3月21日
金沢弁護士会
会長 織田 明彦