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商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)における代表取締役等の住所非表示措置に関し、弁護士による職務上請求制度の創設等を求める会長声明
商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)における代表取締役等の住所非表示措置に関し、弁護士による職務上請求制度の創設等を求める会長声明
商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)における代表取締役等の住所非表示措置に関し、弁護士による職務上請求制度の創設等を求める会長声明(PDF)
第1 声明の趣旨
1 「商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)」を施行する前提として、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人の住所に関する弁護士による職務上請求制度を創設するべきである。
2 上記制度が創設されるまでの間、少なくとも、代表取締役等の住所に関する弁護士法第23条の2に基づく照会に対して回答するべきである。
第2 声明の理由
1 2024年4月16日、「商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)」が公布された(以下「本省令」という)。
本省令は、一定の要件を満たした場合には、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」という。)等の住所の一部について、申出により、登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないこととする措置を定めたものである。まず、当会としては、代表取締役等のプライバシーを保護するという本省令の一般的な趣旨、目的自体には異論はない。
しかし、商業登記における代表取締役等の住所は、単に、①会社に事務所や営業所がない場合の普通裁判籍を決する基準とし、本店所在地への送達が不能となった場合の送達場所とするという訴訟遂行上の有用性があるに止まらず、②会社を悪用した詐欺商法を含む消費者被害等の救済にあたっての調査や被害回復のため、一定の場合に公開されることが必要である。それにも拘わらず、本省令では、①については一定の手当がされているものの、以下のとおり、②の点については特段の手当てがされていない。
すなわち、まず、現代社会では、会社組織を隠れ蓑にし、あるいは、悪用した詐欺商法や違法行為が繰り返されており深刻な被害を発生させている。依頼を受けた弁護士がその被害救済を行う場合には、実体の欠けた会社住所の把握のみでは不十分であり、迅速に代表取締役等の住所情報にアクセスできることが肝要であるのに、本省令は、その迅速なアクセスを阻害するものといわざるを得ない。
この点、本省令が施行された後は、代表取締役等の住所を把握する方法として、登記申請書の附属書類を閲覧することになる。ただし、この手続による場合、請求人ないしその代理人は、利害関係を疎明する資料をもって、管轄法務局の窓口まで赴くか、ウェブ会議システムを利用した閲覧請求(令和6年法務省令第32号)をしなければならないものの、いずれも、管轄法務局が遠方である場合や、所定の手続に時間を要するものであり、手続的、経済的に多大な負担を余儀なくさせるものといわざるを得ない。
特に、昨今、国際ロマンス詐欺やSNS投資詐欺等の詐欺商法が多数発生して社会問題化し、被害金の振込先等で、会社名義の預金口座等が多数悪用されている。それゆえ、会社名義の預金口座等が悪用される等の方法により被害が発生した場合、被害者において、代表取締役等への送達や役員責任追及、保全のため、迅速に、代表取締役等の住所を把握したいというニーズは、実務上、極めて高い。また、会社に事業所や営業所がなく、被害者の請求につき消滅時効の問題がある場合など、被害者が、権利の実現のため、迅速に代表取締役等の住所を把握する必要がある。
よって、当会は、代表取締役等の住所に関する弁護士による職務上請求制度の創設を検討するよう、強く求める。
2 また、上記職務上請求制度が創設されるまでの間、上記②の要請の重要性に鑑みて、以下のとおり、少なくとも弁護士法第23条の2に基づく照会(以下、「弁護士会照会」という。)に対して回答するべきである。
(1) 現状では、登記実務上、㋐登記申請書の附属書類の閲覧ができる者は「利害関係を有する者」に限定されており(商業登記法第11条の2、商業登記規則第21条第2項第3号)、弁護士会はこれに当たらない、㋑商業登記法上、謄写は認められておらず、弁護士法第23条の2の規定に基づき商業登記申請書及びその添付書面である定款の写しの交付について報告を求められても応じるべきではないとされており、実際に登記申請書の附属書類等に関する弁護士会照会がなされても、全く回答されないのが実情である。
(2) しかし、弁護士会照会は、弁護士が「利害関係を有する者」からの依頼を受けて弁護士会に照会申出を行い、これを受けて弁護士会が照会先に照会を行うものであって、実質的に「利害関係を有する者」からの照会にほかならないところ、上記㋐のような形式的な要件解釈は、依頼者である「利害関係を有する者」の権利利益の救済を否定することになりかねず、かえって商業登記法が「利害関係を有する者」の閲覧を認めている趣旨を没却しかねない。
そもそも、弁護士会照会は商業登記法とは別個の法律である弁護士法に根拠を持つ全く別の制度であり、商業登記法上、閲覧が「利害関係を有する者」に限定されていることは何ら弁護士会照会に応じない理由とはならない。
(3) また、弁護士会照会は弁護士法に基づき弁護士会による適正な審査手続を経たうえで発出される公法上の照会であって、公務所又は公私の団体に照会して「必要な事項」の報告を求めるものであり、最高裁第三小法廷平成28年10月18日判決でも「弁護士会照会を受けた公務所又は公私の団体は、正当な理由がない限り、照会された事項について報告をすべきものと解される。」と判示されている。
そもそも、弁護士会照会において「必要な事項」として代表取締役の住所についての報告を求める場合、何ら謄写を求めるものではなく、上記㋑の趣旨は当たらない。仮に、何らか添付書類の写しの交付による報告を求める場合であっても、弁護士会照会は商業登記法とは別個の法律である弁護士法に根拠を持つ全く別の制度であり、上記最高裁判決にも照らすと、商業登記法上、謄写が認められていないことは弁護士会照会に応じない理由とはならない。
(4) よって、上記職務上請求制度が創設されるまでの間、上記②の要請の重要性に鑑みて、少なくとも、「利害関係を有する者」を柔軟に解釈し、代表取締役等の住所に関する弁護士会照会に対して回答するべきである。
2024(令和6)年9月20日
金沢弁護士会
会長 髙木 利定