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特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律の適用等に関する会長声明
特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律の適用等に関する会長声明
特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律の適用に関する会長声明(PDF書類)
第1 声明の趣旨
国は、令和6年9月の能登豪雨災害(以下、「能登豪雨災害」といいます。)について、
1 特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(平成八年法律第八十五 号。以下、「権利保全特別措置法」といいます。)に基づき、可及的速やかに、以下の内容を定める政令を制定すべきである。
(1) 能登豪雨災害につき、権利保全特別措置法第2条第1項の「特定非常災害」に指定し、本年9月21日を特定非常災害発生日と定めるとともに、特定非常災害に対し適用すべき措置として、権利保全特別措置法第3条から第7条までに規定する措置を指定する。
(2) 上記(1)の「特定非常災害」についての権利保全特別措置法第3条第1項の政令で定める日(行政上の権利利益に係る満了日の延長期日)は、2025(令和7)年3月20日とする。
(3) 上記(1)の「特定非常災害」についての権利保全特別措置法第4条第1項の政令で定める特定義務の不履行についての免責に係る期限は、2025(令和7)年1月20日とする。
(4) 上記(1)の「特定非常災害」についての権利保全特別措置法第5条第1項の政令で定める日(法人の破産手続開始の決定の特例に関する措置に係る期日)は、2026(令和8)年9月20日とする。
(5) 上記(1)の「特定非常災害」についての権利保全特別措置法第6条の政令で定める地区(相続の承認又は放棄をすべき期間の特例に関する措置に係る地区)は、能登豪雨災害に際し災害救助法(昭和二十二年法律第百十八号)が適用された同法第2条第1項に規定する災害発生市町村の区域とし、権利保全特別措置法第6条の政令で定める日(相続の承認又は放棄をすべき期間の特例に関する措置に係る期日)は、2025(令和7)年9月20日とする。
(6) 上記(1)の「特定非常災害」についての権利保全特別措置法第7条の政令で定める地区(調停の申立ての手数料の特例に関する措置に係る地区)は、能登豪雨災害に際し災害救助法が適用された同法第2条第1項に規定する災害発生市町村の区域とし、権利保全特別措置法第7条の政令で定める日(調停の申立ての手数料の特例に関する措置に係る期日)は、2027(令和9)年9月20日とする。
2 総合法律支援法(平成16年法律第74号)に基づき、可及的速やかに、同法第30条第1項第4号に規定する「著しく異常かつ激甚な非常災害」として、令和6年9月の能登豪雨災害を指定する政令を制定し、能登豪雨災害の被災者に対しても資力を問わない無料法律相談の実施を可能とすべきである。
第2 声明の理由
1 令和6年能登半島地震の被災状況について
令和6年能登半島地震の発生から約11か月が経過したものの、被災地では今なおライフラインや道路の完全復旧には至っていない。内閣府非常災害対策本部の発表によれば、本年10月29日時点での被害状況は、死者・行方不明者が412名(うち、災害関連死が185名)、負傷者が1341名、半壊以上の住家被害が3万0317棟とされており、これは2011(平成23)年に発生した東日本大震災以降、最大の被害である。また、同日時点において、石川県内では、依然として172名の被災者が避難所での避難生活を余儀なくされている。
被災地では復旧に向けた懸命な支援活動が続いており、徐々に復旧が進みつつあるが、被災地へのアクセスの困難さや自治体、関係事業者の人材不足もあり、公費解体の遅れ等の問題も生じていて、生活再建の入口にすら到達できていない被災者も多数存在する。実際、当会会員が参加する現地の相談会においても、能登地域特有の事情(例えば高齢者だけの世帯が多いことや、相続登記未了の建物が多数存在すること等)もあってか、今なお公費解体の申請前の相談が相当数認められる状況にある。
また、被災地では災害関連死の認定数も増加しており、災害関連死の申請に関する相談や対応も引き続き求められる。
さらに、被災地、特に奥能登地域においては、今後、被災者が将来の生活やなりわいについて具体的な検討を進めるにつれて、各種支援金・補助金の申請、地震に起因する紛争の解決、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインに基づく債務整理を含む債務の処理など、更に多数の法律相談や紛争解決の必要性が高い状況が当面続くものと見込まれる。
2 能登豪雨災害を加えた複合的災害による被害拡大
以上のような被災状況にある能登地域において、本年9月21日から22日にかけて降り続いた豪雨に より、多数の浸水被害、土石流、河川氾濫等が生じ (石川県危機管理監室の2024(令和6)年11月19日付け被害速報によれば、死者15名、住家被害は全壊108棟や床上浸水270棟を含め計2168棟)、令和6年能登半島地震により被災した住居だけでなく、同地震を受けて建設された仮設住宅においても浸水被害が生じるなどしており、ますます住宅再建に時間を要することが予想される。
報道によると、石川県においては、輪島市、珠洲市、能登町で整備した応急仮設住宅約5000戸の16%に当たる806戸で豪雨による浸水被害が発生したとのことである。石川県知事の記者会見では、上記浸水被害のあった応急仮設住宅の修繕について年内完了を目指しているとのことであるが、他方で本来であれば能登豪雨災害の被災者に速やかに供与されるべき応急仮設住宅の完成時期は2025(令和7)年2月中旬ないし3月中旬頃となる見込みであり、能登豪雨災害の被災者は住宅再建どころか、今後冬場を迎えるにあたり、避難所等での不安定かつ過酷な生活を強いられる状態にある。
能登豪雨災害では、令和6年能登半島地震やその余震の影響により河川の地盤が弱まり、護岸や堤防が損壊したところへ、大量の土砂が押し出されたという被害も指摘されているなど、同地震の影響によって被害が拡大した可能性がある。すなわち、地震と豪雨という複数の要素が相互に影響し合うことで、豪雨が単一で起こる場合と比較して広域かつ甚大な被害をもたらしたものであり、いわば複合災害である。また、輪島商工会議所が輪島市内の約1000の事業所の被災状況を調査したところ、521事業所が地震後営業を再開したものの、その約3割にあたる145事業所が豪雨で被災し、うち28事業所が再び休業に追い込まれたとの報道もあり、地震で既に被害を受けていた事業者に豪雨災害が追い打ちをかけたという観点からしても、地震被害を加重する複合災害といえる。
ところが、ほとんどの被災者支援制度は単独の災害を前提としていることから、今回の複合災害への対応として十分か否かは不透明であり、制度の狭間に陥る被災者が生じることが危惧され、権利保全措置特別措置法による期限延長や総合法律支援法における被災者法律相談援助などによる被災者支援の重要性・必要性はより高まっている。
被災地、特に奥能登地域では、令和6年能登半島地震の発生から8か月以上が経過し、当面の生活を確保し、ようやく将来の生活やなりわいについても被災者が考えることができるようになりつつある状況下で、今回の豪雨災害が起きたことにより、被災者だけでなく、支援者側も精神的に大きなショックを受け、被災地において、復旧復興に向けて前向きな気持ちになれない旨の話が出るなど、早期の復旧復興に向けて更に困難な課題も生じており、これまで以上に被災者支援の重要性・必要性が高まっている。
3 速やかな政令制定の必要性
当会は、2024(令和6)年9月30日「能登半島地震に関し、法テラス支援特例法の制定等による法的支援の継続を求める会長声明」にて、被災者に十分な法律相談支援等を受けられるよう特例法の制定や法改正を求めているが、特例法の制定や法改正には時間を要することは自明であり、殊に、地震の被災地において発生した能登豪雨災害については、複合災害による被害拡大に対応すべく、速やかな政令制定によって、継続的な被災者支援を可能とする必要がある。
したがって、速やかに、2024(令和6)年9月の能登豪雨災害について、権利保全特別措置法第2条第1項に基づく「特定非常災害」として指定するとともに、総合法律支援法第30条第1項第4号に規定する「著しく異常かつ激甚な非常災害」として指定すべきである。
2024(令和6)年11月29日
金沢弁護士会
会長 髙 木 利 定