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公費解体申請期限の撤回及び延長並びにそれら情報の早期の周知を求める声明
公費解体申請期限の撤回及び延長並びにそれら情報の早期の周知を求める声明
公費解体申請期限の撤回及び延長並びにそれら情報の早期の周知を求める声明(PDF書類)
第1 声明の趣旨
1 石川県内の各市町は、速やかに、公費解体の申請期限の締切りを撤回し、又は申請期限の大幅な延長を行うべきである。
2 石川県内の各市町は、速やかに、公費解体の申請期限の締切りの撤回又は延長した旨を住民に十分に周知し、公費解体制度の利用が実質的に保障されるよう適切な手段を講じるべきである。
第2 声明の理由
1 はじめに
令和6年能登半島地震に関しては、石川県内の各市町において、罹災証明書・被災証明書上の損壊度が半壊以上の建物について公費解体が実施されている。公費解体は被災者が生活再建する際の重要な選択肢の一つであるが、公費解体を申請するか否かを判断するためには、被災者が各自の被災状況や地域社会の復興の行方等に鑑みながら、被災建物を修理すべきか、解体して新たな建物を建築するか等を熟慮する必要がある。
そのような中、現在、石川県内では現に公費解体の申請期限を締め切った自治体があり、また申請期限が目前に迫っている自治体が多数ある状況となっている。
しかし、各市町にはいまだ公費解体の申請ができず、又は現状予定されている期限に申請が間に合わないおそれのある損壊建物が存在する可能性がある。また、申請期限が間近に迫ってくることは、被災者を焦らせ、拙速な判断を強いるおそれもある。
このような状況において、早期に公費解体の申請期限を締め切ることは、被災地の復旧復興及び被災者の生活再建に重大な悪影響を与えるおそれがある。
以下、これらにつき具体的に述べる。
2 県内各市町における公費解体に関する申請期限の現況等
現在、石川県内の市町における公費解体の申請期限については、①既に申請期限を締め切っている自治体、②令和7年3月31日、③同年4月30日、④同年5月30日、⑤同年6月30日、⑥同年8月29日を申請期限とする自治体がある。
特に、令和7年3月31日を申請期限とする自治体が多く、間もなく多くの自治体において公費解体の申請受付が終了するおそれがある。
3 申請期限の期間が不十分であること
(1) 公費解体をするかどうかを決めることは容易でないこと
被災者は、震災により居住建物等に損壊を受け、心身ともに傷つき疲弊している中で、「これからの生活」をどのようにしたらよいか悩んでいる。長年住み慣れた思い入れのある建物を修繕して住み続けるのか、解体して建て直すのか、それとも慣れ親しんだ土地を離れ、新たな居住場所を探すのかといった選択自体が、被災者各自の人生に深く関わる非常に悩ましい問題である。
しかも、その検討のためには、まず、建築士等に被災建物が修復可能であるかどうかを見てもらう必要がある。仮に修復が可能であるならば、修復工事の見積もり等を取る必要がある。他方、仮に修復が不能であるとすれば、被災建物を解体して同地に再築するのか、新たな場所に再築するのか等を検討することとなり、その前提としての見積もり等を取る必要がある。被災地の建築士、建築業者等の不足状況等に鑑みると、これらの段取り自体にかなり時間を要する状況にある。実際に当会が被災地支援をする際に、修理見積もりが順番待ちで具体的な見積もり時期も未定だったという事案も散見された。
そのうえで、それら見積もり等も前提として、どのような支援制度の対象となるのか、どのような支援金や給付金等の金銭給付があるのか、どのように従前の債務を扱ったらよいか、どのように資金を調達すればよいのかなど、複雑な支援制度等の情報を集め、整理して慎重に考える必要がある。
また、被災建物がある地域の今後の復興がどのようになっていくのかについてもある程度見通しが立たないと、被災建物のある地域で再築するのか、新たな居住場所を探すのかといった選択も困難である。
それらの整理・検討にはかなり時間がかかるうえ、長年居住した家を解体する決断や住み慣れた地域を離れるという判断自体が辛い決断であり、被災者がしっかりと考えて決断するためには、十分な時間が必要である。
以上の諸点に鑑みると、現状の公費解体の申請期限が不十分であることは明らかである。
(2) 公費解体の申請手続に支障のある事案が相当数想定されること
また、今回の被災地では、相続手続未了の不動産が多く、法定相続人が多数にのぼるなど相続人調査に時間を要する事例や、公費解体の申請にあたって同意書が必要となる関係者が多数にのぼり同意書取得にかなりの時間を要する事例、法定相続人が全て相続放棄をしたり、そもそも所有者が誰なのかもはっきりとしないなど裁判所により相続財産清算人や所有者不明建物管理人、不在者財産管理人が選任されなければ公費解体の申請ができない事例など、速やかな公費解体申請が困難な事例が相当数予想される。当会が実施している対面・電話による相談にもこれらの問題を訴える悲痛な声が多く寄せられている。
特に相続財産清算人や所有者不明建物管理人、不在者財産管理人を選任しなければならない事例では、裁判所への管理人等の選任申立ての準備、その申立てから具体的に選任されるまでの手続、そして選任後の調査等、各段階において相当の期間を要する。相当急いで手続を進める場合にあっても、公費解体の検討を開始する時期から半年程度以上は優にかかってしまう実情がある。
このような公費解体の申請手続に支障のある事案では、現状の公費解体申請期限までに申請をすること自体が困難である。
⑶ 公費解体の申請期限を早期に締め切る必要性・相当性が乏しいこと
そもそも、公費解体には法律上の明確な申請期限が設定されていない。
石川県も、公費解体の申請期限について、一応の目安に過ぎず、公費解体の申請期限を過ぎたからといって、申請を一律に締め切るという考えではないと説明している。
仮に公費解体ができないとなると、被災者に自費での取壊しという著しい負担を与えるおそれがあるうえ、被災者が取壊費用を工面できない場合等に被災建物が解体されないまま残ってしまうなど、将来的な被災地の復旧・復興に大きな悪影響を与えるおそれもある。
これらの観点からすると、公費解体の申請期限を早期に締め切ることは、災害からの復旧・復興という本来の目的に照らして、必要性も相当性も乏しいと言わざるを得ない。
4 申請期限を超えた場合に関する対応が不透明であること
石川県内の各市町においては、「やむを得ない理由がある場合」には申請期限を超えた場合にあっても公費解体の申請を受け付ける可能性のあることを留保している自治体もある。
しかし、被災者等の公費解体の申請者にとっては、どのような場合が「やむを得ない理由がある場合」となるのかは不明瞭と言わざるを得ない。このような不明瞭な状態におかれた被災者等の申請者としては、十分な検討もできないまま焦って期限までに公費解体を申請するか、公費解体の期限に間に合わない、あるいは、公費解体の申請期限を過ぎてしまっていることから公費解体の申請を断念するかといった選択を迫られることになる。
このような事態が生じる以上、現状の各市町による「やむを得ない理由がある場合」という不透明な例外対応の余地を残すことをもって申請期限を締め切るという対応は、適切なものとはいえない。
5 以上より、石川県内の各市町においては、速やかに、公費解体の申請期限の締切りを撤回し、又は大幅に申請期限を延長して、被災者等に十分な公費解体の機会を保障すべきである。
また、石川県内の各市町においては、公費解体の申請期限の締切りの撤回及び延長を決した場合は、被災者等の不安や焦りを解消するためにも、速やかに、住民に当該情報を十分に周知し、公費解体制度の利用が実質的に保障されるよう適切な手段を講じるべきである。
2025(令和7)年3月14日
金沢弁護士会
会長 髙 木 利 定