-
国旗損壊罪創設に反対する会長声明
国旗損壊罪創設に反対する会長声明
1 2026(令和8)年6月16日、自由民主党、日本維新の会、国民民主党、参政党の4党は、国旗の損壊等の処罰に関する法案(以下、本法案という)を衆議院に共同提出したが、同月30日、本法案は、共同提出した国民民主党、参政党らを含む全野党欠席の中、衆議院本会議で可決された。
本法案は、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者」に対し、「2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金」の刑罰を科すとする(第2条1項)ものである。
2 本法案は、そもそも立法事実がなく、その立法趣旨・規制の必要性にも疑義がある。
現在の日本には、国旗が損壊されることで社会秩序が保てなくなっているような状況は存在せず、そもそも立法事実がない。刑罰法規は国民の自由を強く制約する法規であり、確たる立法事実がないのに新設されることは決してあってはならない。
国旗損壊罪の保護法益は「国旗を大切に思う国民の感情」であるとされているが、表現行為そのものを規制して表現の自由に対する過度な侵害をもたらす危険性があるにもかかわらず、「国民の感情」という法益はあまりに抽象的で漠然としており、刑罰法規によって保護する適格性がない。
国旗を損壊する行為は、その手段に着目すれば、器物損壊罪(刑法261条)、窃盗罪(刑法235条)、公道上で火を放てば火炎びん処罰法や道路交通法、消防法などの適用が可能であるし、デモなどで公的機関や他者の業務を妨害すれば、威力業務妨害罪(刑法234条)の適用もできる。特定の選挙活動の妨害に及んだ場合は公職選挙法違反ともなるもので、既存の法律で十分対処が可能である。
3 本法案は構成要件が曖昧であり罪刑法定主義(憲法31条)に反し、表現の自由(憲法21条)、思想良心の自由(憲法19条)を侵害するおそれも高く、極めて問題が多い。
本法案が規制対象とする「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」は極めて漠然としており、客観的明確性を欠く。国民の間に権力批判を萎縮させる効果をもたらし、風刺や芸術表現までも萎縮させる危険性を孕む。
日本では、過去に日の丸が軍国主義高揚の手段として使われた歴史的経緯があるため、国旗の損壊が、政府の政策や国家体制に対する批判・抗議の意思を示す「象徴的言論」としてなされることが考えられる。これは、民主主義社会において手厚く保護されるべき政治的表現であり、本法案はそのような政治的表現行為そのものの規制として働き、表現の自由を侵害するおそれが高い。
そもそも、国旗を大切に思う感情も、批判的感情も、また無関心も、まさに国民一人ひとりの内心の自由に属するものである。したがって、国旗に対する感情は、国民の自由かつ自然な感情に委ねられるべきものであり、刑罰をもって強制されるものではない。このような、刑罰により個々人の感情を強制しかねない法制度は、憲法19条が保障する内心の自由をも侵害するおそれがある。
4 国旗の損壊は、表現行為としての価値を有し、保護の必要性が高いことは、アメリカの連邦最高裁判所でも示されている。
星条旗の焼却が国旗損壊罪に問われた事件において、合衆国連邦最高裁判所は、1989年、1990年の二度にわたり、国旗の損壊は表現の自由の憲法的保障を受けると判示し,その中でブレナン判事(William Joseph Brennan Jr.)は、『社会がある思想それ自体を不快に感じ、あるいは不同意とみなしているだけでは、当該思想の表明を政府は禁止することが許されない』と述べている。
5 以上のとおり、国旗損壊罪を創設することは、そもそも立法事実がなく、その必要性もなく、むしろ、罪刑法定主義(憲法31条)に反し、表現の自由(憲法21条)、思想良心の自由(憲法19条)を侵害するおそれが高いものであるから、当会はこれに強く反対する。
2026(令和8)年7月13日
金沢弁護士会
会 長 高見 健次郎








